このページの最終更新日 2020年12月13日
行為能力(単独で取引を行う資格)を制限された者を制限行為能力者(せいげんこういのうりょくしゃ)という。
民法は、年齢や家庭裁判所の審判といった形式的な基準によって一定範囲の者を定め、それらの者の行為能力を制限する。
民法が定める制限行為能力者は、未成年者・成年被後見人・被保佐人・被補助人の4種類である。
それぞれ想定される判断能力の程度が異なっており、それに応じて行為能力の制限により保護される範囲にも広狭がある。
欠格事由
次の職業・営業では、制限行為能力者(とくに成年被後見人および被保佐人)であることが欠格事由とされている。
① 専門的資格を必要とする職業
弁護士、司法書士、行政書士、公認会計士、税理士、弁理士、医師、歯科医師、薬剤師、社会福祉士、教員など。
② 免許・登録を要する営業
風俗営業、古物営業、警備業、一般労働者派遣業、薬局など。
③ 株式会社の取締役や監査役、一般社団法人等の役員
なお、制限行為能力者であっても選挙権・被選挙権を有するし、運転免許を制限されることもない。
制限行為能力者は、行為能力が制限された行為について単独で(自己の判断のみで)取引を行うことができない。そこで、制限行為能力者の利益を図るために保護者が付けられる。
保護者は、制限行為能力者自らがする取引に助力し(同意権)、あるいは、制限行為能力者を代理して取引を行う(代理権)。
そして、制限行為能力者が保護者の関与なしに単独で取引した場合に、保護者はその取引の効力を否定することができる(取消権)。
【表】制限行為能力者の種類
未成年者 | 成年被後見人 | 被保佐人 | 被補助人 | |
要件 | 20歳未満の者(4条参照) | 精神上の障害により事理弁識能力を欠く常況にある者(7条) | 精神上の障害により事理弁識能力が著しく不十分である者(11条) | 精神上の障害により事理弁識能力が不十分である者(15条) |
能力の範囲 | 特定の行為以外は単独でできない(5条・6条) | 日常生活に関する行為を除くすべての財産行為ができない(9条) | 13条1項所定の行為だけ単独でできない(13条) | 同意権付与の審判を受けた行為だけ単独でできない(17条) |
保護者 | 法定代理人(親権者または未成年後見人) | 成年後見人 | 保佐人 | 補助人 |
保護者の権限 | 同意権・代理権・取消権 | 代理権・取消権 | 同意権・取消権、付加的に代理権 | 同意権・取消権または代理権 |
未成年者(みせいねんしゃ)とは、成年に達していない者をいう*。民法は、成年年齢を20歳とする(4条)⁑。
*20歳未満の者であっても、婚姻(結婚)をすることによって成年に達したものとみなされる(753条)。これを婚姻による成年擬制(せいねんぎせい)という。
⁑成年年齢を18歳に引き下げる改正法が2022年4月1日から施行される。
未成年者の保護者は、親権者(しんけんしゃ)または未成年後見人(みせいねんこうけんにん)である。ともに未成年者を代理する法定代理人となる。
未成年者が自ら取引を行うときは、原則として保護者の同意を要する(5条1項本文)。
例外的に、次のような行為は保護者の同意なしに行うことができる。
① 単に権利を得、または義務を免れる法律行為(5条1項ただし書)
② 処分を許された財産の処分(同条3項)
③ 営業を許された未成年者がその営業に関してする法律行為(6条)
成年被後見人(せいねんひこうけんにん)とは、認知症・知的障害・精神障害などの精神上の障害により事理を弁識する能力(判断能力)を欠く常況にある者*であって、家庭裁判所による後見開始の審判を受けた者をいう(8条)。
*具体的には日常の買い物すら1人でできないような精神状態であって、ときどき判断能力を回復することがあっても、判断能力を欠く状態が通常であるような状況(常況)を指す。
成年被後見人には、その保護者として成年後見人(せいねんこうけんにん)が付けられる(8条)。成年後見人は、法定代理人である。
成年被後見人は、原則として自ら取引を行うことができない(日常生活に関する行為は例外、9条)
成年被後見人は、判断能力を欠く常況にあるから、保護者(成年後見人)の指図どおりに行動することを期待できないからである。
したがって、たとえ保護者の同意を得て行為した場合であっても、その行為を取り消すことができる。
被保佐人(ひほさにん)とは、精神上の障害により事理弁識能力が著しく不十分である者*であって、家庭裁判所による保佐開始の審判を受けた者をいう(11条本文、12条)。
*日常の買い物程度は自ら行うことができるが、重要な取引については単独で適切に行うことができない精神状態を指す。
被保佐人には、その保護者として保佐人(ほさにん)が付けられる(12条)。
被保佐人が民法13条1項各号の財産行為をするには、保護者(保佐人)の同意を得なければならない(同条同項本文)。
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さらに、家庭裁判所の審判によって、保佐人の同意を要する行為の範囲を、民法13条1項所定以外の行為にまで拡大することができる(同条2項本文)。
精神上の障害により事理弁識能力が不十分である者であって、家庭裁判所による補助開始の審判を受けた者を、被補助人と呼ぶ(15条1項本文、16条)。
事理弁識能力が「不十分である」とは、重要な取引を行うに際して誰かの援助があったほうが好ましいような精神状態であることをいう。その程度が深刻な場合には、保佐開始の審判の対象となる。
なお、被補助人は、必ずしも行為能力を制限されるとはかぎらない。それは、補助人の同意を要する旨の審判を受けた場合だけにかぎられる(17条1項)。
被補助人には、その保護者として補助人が付けられる(16条)。
特定の法律行為について補助人に同意権が付与された場合、被補助人がその行為をするには補助人の同意を得なければならない(17条1項本文)。すなわち、その行為についての被補助人の行為能力は制限される。
被補助人に対する行為能力の制限の範囲は、民法13条1項所定の行為の一部に限られる(17条1項ただし書)。被補助人の判断能力は被保佐人よりも高いことが想定されているので、被保佐人に対する行為能力の制限の範囲を超えるべきではないからである。
民法は、日用品の購入その他日常生活に関する行為について、成年被後見人などの行為能力を認めている(9条但書・13条1項但書)。
精神上の障害のある者であっても、日用品の購入や公共交通機関の利用など日常生活に不可欠である取引については健常者と同じように行えることが望ましいからである。
婚姻や遺言などの身分上の行為については本人の意思を尊重すべきであるので、一般に行為能力の規定は適用されない(738条・780条・961条・962条など参照)。
したがって、制限行為能力者であっても、意思能力があるかぎり、単独で有効に行うことができる。
次の各文を読んで、その内容が正しければ〇、間違っていれば✕と答えなさい。
(1) 行為能力を制限された者は、その制限された範囲内の取引について新たに取引の当事者となることができない。
(2) 事理弁識能力(判断能力)の程度は、成年被後見人、被保佐人、被補助人の順に低い。
(3) 成年被後見人であっても、成年後見人の同意を得た行為については単独で有効に行うことができる。
(4) 被補助人は、必ずしも行為能力を制限されるとはかぎらない。
(5) 未成年者であっても、日用品の購入等日常生活に関する行為については、単独で行うことができる。
ヒント
(1) 行為能力を制限された者であっても、保護者の同意を得れば取引を行うことができるし、代理人が本人に代わって取引を行うこともできる。取引社会から排除された存在になるわけではない。
(2) 成年被後見人、被保佐人、被補助人は、それぞれ事理弁識能力を欠く常況にある者、事理弁識能力が著しく不十分である者、事理弁識能力が不十分である者と認められた者であって、この順に判断能力が低い。
(3) 成年被後見人は、保護者が同意を与えたとしても、そのとおりに行動することが期待できないのであるから、自ら行為することができない。
(4) 被補助人の行為能力を制限するには、補助人の同意を要する旨の審判が必要である。
(5) 未成年者は、処分を許された財産の処分をすることはできるが、広く日常生活に関する行為を単独ですることはできない。
(1) ✕
(2) 〇
(3) ✕
(4) 〇
(5) ✕