婚姻意思(こんいんいし)は、直接定めた規定はないが、婚姻の不可欠の要件である。
婚姻が有効であるためには、婚姻当事者の間に婚姻意思の合致(婚姻をする合意)があることが必要である。当事者の双方または一方に相手方との婚姻意思がない場合、その婚姻は無効である(民法742条1号)。
婚姻意思の内容について議論がある。
通説は、婚姻意思を社会通念上夫婦といえる関係を形成する意思であると解する(実質的意思説)。これに対して、婚姻意思を婚姻の届出をする意思と解する考え方もある(形式的意思説)。
判例は、婚姻意思を「当事者間に真に社会観念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する効果意思」であると解し(実質的意思説)、子に嫡出子としての地位を得させるための便法として婚姻の届出をしても、そのような婚姻は婚姻意思がないのであるから効力を生じないとする(最判昭44.10.31)。
届書を作成してから届出が受理されるまでの間には時間差があるので、婚姻意思が届書作成の時点では存在しても、届出受理の時点において存在しない場合が生じうる。その場合の婚姻の効力が問題となる。
(1) 当事者が翻意した場合
届出が婚姻の成立要件であるとすると、届出受理時にも婚姻意思が存在していなければならない。したがって、当事者が受理時までに翻意して婚姻意思を失っていた場合には、婚姻は無効となる(離婚届についての最判昭34.8.7)。
もっとも、翻意した当事者は、相手方または戸籍事務担当者に対してその旨を表示しなければならないと解されている。
(2) 当事者が意識を喪失していた場合
判例は、事実上の夫婦共同生活関係にある者が婚姻意思に基づいて婚姻の届書を作成した後、その受理までの間に夫が昏睡状態に陥って意識を失い、受理後間もなく死亡したという事案において、受理以前に翻意するなど婚姻意思を失う特段の事情のないかぎり、届書の受理により婚姻は有効に成立すると判示している(最判昭44.4.3)。
なお、届出受理時に当事者が死亡していた場合、届出は効力を生じない(大判昭16.5.20)。ただし、届出人が生存中に届書を郵送していたときは、死亡後であっても届出は受理され、届出人の死亡時に届出があったものとみなされる(戸籍法47条)。