このページの最終更新日 2016年5月5日
民法は婚姻をすることができない場合をいくつか定めており(731条~737条)、それらの事由を婚姻障害と呼ぶ。婚姻障害が存在する場合には、婚姻の届出をしても受理されない(740条参照)。もし誤って受理された場合には、婚姻の取消しが問題となる。
民法の定める婚姻障害には、次のようなものがある。
① 婚姻適齢(731条)
② 重婚の禁止(732条)
③ 再婚禁止期間(733条)
④ 近親婚の禁止(734条~736条)
⑤ 未成年者の婚姻についての父母の同意(737条)
以下、これらの要件について順次説明する。
法律上、婚姻は一定の年齢に達している者でなければ有効にすることができない。民法731条は、婚姻を有効に行うことができる年齢(婚姻適齢)を、男18歳、女16歳と定めている。肉体的・精神的に未成熟な者どうしの婚姻を制限する趣旨である。
このように、婚姻をすることができる年齢に男女間で差があることは、男女平等の観点からすると問題がある。このような年齢差を廃止すべきとする意見も有力である。
配偶者のある者が重ねて婚姻することを重婚と言い、民法はこれを禁止している(732条)。刑法上も、重婚は犯罪として処罰される(刑法184条)。このように法は、重婚を禁止することによって、一夫一婦制を採用する立場を明確にしている。
なお、重婚が禁止されるのは、法律上の(届出のある)婚姻に関してである。事実上の婚姻が重複する場合や、法律上の婚姻と事実上の婚姻が重なった場合は、民法が禁止する重婚にはあたらない。
(1) 重婚が生じる場合
通常、法律上の配偶者の有無は、戸籍事務担当者が届出の際に確認することができる。それにもかかわらず、重婚が生じる可能性がまったくないわけではない。重婚が生じる場合として、通常、次のような場合が挙げられる。
① 戸籍事務処理上のミスによって重婚の婚姻届が受理された場合
② 離婚後に再婚したところ、その離婚が無効であったり、取り消されたりした場合
③ 失踪宣告を受けた者の配偶者が再婚したところ、その失踪宣告が取り消された場合
再婚後の失踪宣告の取消しによって重婚状態が生じるのは、後婚当事者の少なくとも一方が悪意であった場合にかぎられる。後婚当事者双方が善意であった場合には、民法32条1項後段の適用により、前婚が復活しないので重婚状態は生じない。同規定の適用を否定して、つねに後婚が有効であるとする説もある。
(2) 重婚の効果
重婚が生じると、先の婚姻(先婚)と後の婚姻(後婚)のいずれにもその影響が及ぶ。重婚は、後婚については取消しの原因となる(744条)。また、先婚についても、不貞行為または婚姻を継続しがたい重大な事由として離婚原因となる(770条1項)。
民法は、女性についてだけ、再婚をすることができる時期に制限を設けている。すなわち、女は、前婚の解消(離婚あるいは配偶者の死亡)または取消しの日から6ヶ月を経過した後でなければ、再婚することができない(733条)。この6ヶ月の期間を再婚禁止期間と言う。待婚期間などと呼ばれることもある。
民法772条は婚姻中に懐胎した子の父を夫であると推定しているが、前婚の解消または取消しの後にすぐ再婚すると、その推定が前夫と後夫のどちらにも働く場合が生じうる。女性にのみ再婚禁止期間を課したのは、そのような父性推定の重複による混乱を予防するためである。
もっとも、父性推定が重複するおそれがない場合には、再婚禁止期間内であっても再婚が認められることがある。法律あるいは戸籍先例によって、次のような場合には再婚禁止期間内の婚姻が認められている。
① 女性が前婚の解消または取消しの前から懐胎し、その後出産した場合(その出産の日から再婚することができる。733条2項)
② 離婚した前夫と再婚する場合
③ 夫の3年以上の生死不明を理由とする離婚判決があった場合
④ 前婚について夫による悪意の遺棄後6ヶ月が経過した場合
⑤ 懐胎可能年齢を超えている場合(戸籍実務上、55歳以上とされている。)
親等の近い者の間で婚姻することは、優生学上好ましくなく(近親婚を繰り返すと遺伝病の発症率が高くなる)、また、倫理的に見ても問題がある。そこで、民法は、一定範囲の近親者どおしの婚姻を禁止している(734条~736条)。
(1) 近親婚の禁止の範囲
民法は、次のような婚姻を近親婚として禁止する。
① 直系血族間の婚姻(734条1項本文)
② 3親等内の傍系血族間の婚姻(734条1項)
③ 直系姻族間の婚姻(735条)
①は親子(養親・養子)間や祖父母と孫との間などの婚姻であり、②は兄弟姉妹間や、おじ・おばとおい・めいとの間の婚姻である。いとこどおしは、4親等の傍系血族であるから、婚姻することができる。③は、しゅうとと嫁の間や、死亡配偶者の連れ子と生存配偶者との間で婚姻する場合である。
以上の婚姻の禁止は、特別養子縁組によって養子と実方との親族関係が終了(817条の9)した後も同様である(734条2項、735条後段)。
父と認知されていない子との間の婚姻は、戸籍上の親子関係がなく、また、戸籍事務管掌者には実質的審査権がないため、婚姻届がなされると受理されることになる。
(2) 倫理的理由による禁止
直系姻族間や法定直系血族間で婚姻が禁止されるのは、もっぱら倫理的な理由による。これらの婚姻の禁止は、離婚等や離縁によって親族関係が終了した後も存続する(735条後段、736条)。
なお、養子と養方の傍系血族との間の婚姻は禁止されていない(734条1項ただし書)。したがって、養親の実子と養子との婚姻は認められる。
婚姻適齢(男18歳、女16歳)に達した者は婚姻をすることができるので、未成年者であっても婚姻をすることができる。ただし、未成年者が婚姻をするには、父母の同意を得なければならない(737条1項)。
婚姻は両性の合意のみに基づいて成立する(憲法24条1項)のが原則であるが、十分な思慮分別のない未成年者が軽率な婚姻をしないように配慮する必要がある。そこで、法は、未成年者を保護するために、父母に同意権を与えて未成年の子の婚姻に関与させることにした。
(1) 「父母の同意」の意味
本条にいう「父母」は、親権者(法定代理人)であるかどうかを問わない。父母が離婚していてもその双方が同意権を有する。未成年者が養子であるなら、養親と実親の両方が考えられるが、戸籍先例は養父母だけを同意権者とする。
父母の一方が①同意しないとき、②知れないとき、③死亡したとき、または、④意思を表示することができないときは、他の一方の同意だけで足りる(737条2項)。
父母の双方が同意しないときは婚姻をすることができないが、父母の双方が知れないとき、死亡したとき、意思を表示することができないときについては規定がない。そのようなときは、同意は不要であると解される(通説)。
(2) 父母の同意を欠く婚姻届の受理
父母の同意を得ずに未成年者が婚姻の届出をしても受理されない(740条)。ただし、誤って受理された場合には、取り消すことができず、有効な婚姻として扱われることになる(744条1項本文は737条違反の婚姻を取消しの対象から除外している)。
成年被後見人は、成年後見人の同意がなくても婚姻をすることができる(738条)。成年被後見人本人の意思を尊重する趣旨である。もっとも、意思表示をする以上、本人の意思能力が回復している状態でなされる必要がある。