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婚姻の一般的効力

このページの最終更新日 2016年5月11日

▼ 婚姻の効果

婚姻が成立すると、夫婦の間に身分上および財産上のさまざまな法律関係ないし効果が生じる。民法は、それら婚姻の効果を、「婚姻の効力」(750条~754条)および「夫婦財産制」(755条~762条)の二つの節に分けて規定している。

(1) 婚姻の一般的効力

「婚姻の効力」の節には、夫婦の身分関係に関する規定のほか、夫婦の財産関係に関する規定も置かれている。ここで定められた婚姻の効果を婚姻の一般的効力あるいは一般的効果と呼ぶ。もっとも、夫婦の財産関係に関する規律は、「夫婦財産制」の節に置かれている規定が中心となる。これについては、ページを改めて説明したい。

婚姻の一般的効力(一般的効果)を列挙すると、次のとおりである。

① 夫婦同氏(750条)

② 同居・協力・扶助義務(751条)

③ 貞操義務

④ 成年の擬制(753条)

⑤ 夫婦間の契約の取消権(754条)

(2) その他の婚姻の効果

婚姻の章第2節「婚姻の効力」および第3節「夫婦財産制」が規定するのは、主に夫婦間における法律関係ないし効果である。だが、婚姻から生じる法律関係はそれだけにとどまらない。夫婦の間に生まれた子は、嫡出子となってその夫婦(父母)の親権に服する(818条1項)。また、夫婦の一方と相手方配偶者およびその血族との間には親族関係が発生し(725条参照)、夫婦は互いに相続権を持つ(890条)。

▼ 夫婦の氏

夫婦は、婚姻に際して夫または妻のいずれかの氏(名字)を選択し、婚姻が継続している間はその氏を称しなければならない(750条)。これを夫婦同氏の原則と呼ぶ。夫婦となる者のどちらの氏を夫婦共通の氏(婚氏)にするかは当事者が自由に決定することができるが、新たな氏を称することは認められていない。

婚姻届には、夫婦が称する氏を記載しなければならない(戸籍法74条1号)。婚姻によって夫婦は同一戸籍に入り(夫婦同籍の原則、同法16条)、夫の氏を称するときは夫、妻の氏を称するときは妻が戸籍筆頭者となる(同法14条)。

夫婦となる者が偶然に同姓であったとしても、法律上は別個の氏として扱われるので、いずれかの氏を婚氏として定める必要がある。

婚姻によって氏を改めた者は、婚姻の解消によって婚姻前の氏に戻ることができる(751条1項、767条1項)。復氏に関しては、離婚に関連するページで説明する。

▼ 同居・協力・扶助の義務

民法752条は、「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」と定める。婚姻の実質が夫婦が協同して生活を営むことであるとすると、本条は当然の要請であるといえる。

(1) 同居義務

夫婦は、同一の場所に居住して共同生活をしなければならない。単に住居を同じくすること(いわゆる家庭内別居)は、この意味の同居とは言えない。

居住する場所は、夫婦の協議で定める。そして、夫婦の一方が同居を拒むときは、他方は同居請求をすることができる。ただし、それを強制する手段はない(直接強制も間接強制もできない)と解されている(大決昭5.9.30)。

単身赴任や病気療養などの正当な理由があれば、一時的に別居をしても同居義務に違反するとはいえない。

正当な理由なく同居を拒むときは、悪意の遺棄として離婚原因になり(770条1項2号)、また、相手方配偶者は扶養義務を拒絶することができる。

(2) 協力義務・扶助義務

協力義務は婚姻生活を維持するために事実的な協力(子育てなど)をする義務であり、扶助義務は夫婦間の扶養義務である。夫婦間の扶養義務は、互いの生活水準を同等に保持すべき義務(生活保持義務)であって、一方に余裕があるかぎりで貧窮する他方を援助する義務(生活扶助義務)ではない。

▼ 貞操義務

夫婦は、互いに貞操を守る義務を負う。明文の規定はないが、婚姻の本質上、当然の義務である。貞操義務に違反する行為(不貞行為)は、離婚原因となる(770条1項1号)。

旧法の下でも、判例によって夫の貞操義務が肯定されていた(大判大15.7.20)。

夫婦の一方と情を通じた第三者は、他方配偶者に対して不法行為責任を負う(最判昭54.3.30―夫婦の子に対しては不法行為責任を負わない)。

もっとも、夫婦間の婚姻関係がすでに破綻していた場合には、不貞相手の第三者は、特段の事情のないかぎり、他方配偶者に対して不法行為責任を負わない(最判平8.3.26)。

▼ 成年の擬制

未成年者は、婚姻によって成年に達したものとみなされる(753条)。これを婚姻による成年擬制と呼ぶ。婚姻後も行為能力が制限され、親権・未成年後見に服したままでは、独立した婚姻生活を営むことができない。そのため、婚姻後の未成年者を成年者と擬制することで、行為能力の制限を受けず、親権・後見が終了するようにしたのである。

(1) 婚姻の解消または取消し後

未成年者が20歳になる前に婚姻の解消または取消しがあった場合、成年擬制の効果が消滅するかどうかが問題になる。取引の安全や婚姻中に生まれた子の親権に配慮して、消滅しないと解するのが通説である。戸籍先例は、不適齢を理由とする婚姻の取消しを除いて消滅しないとする。

(2) 本条の適用範囲

本条の成年擬制の効果が及ぶ範囲は、私法的な法律関係にかぎられる。行為能力の制限(5条・6条)や親権(818条1項)・未成年後見(838条1号)のほか、成年であることを要求する規定(792条、847条1号、974条1号、1009条、民事訴訟法31条など)にも本条適用の効果が及ぶ。

これに対して、選挙権(公職選挙法9条)や飲酒・喫煙(未成年者飲酒禁止法1条、未成年者喫煙禁止法1条)などの公法的な法律関係には本条適用の効果は及ばない。

▼ 夫婦間の契約取消権

● 民法754条の取消権の内容

民法754条は、「夫婦間でした契約は、婚姻中、いつでも、夫婦の一方からこれを取り消すことができる」と規定する。たとえば、夫婦間で贈与契約を結んだとしても、債務者である配偶者は、婚姻が継続している間はいつでもその契約を取り消すことができる。

取り消すことのできる契約の種類に制限はない。婚姻関係の継続中であれば、履行の前後を問わず、いつでも取り消すことができる。また、本条の取消権は消滅時効にかかることはない(民法126条が適用されない)。

契約は、取消しによって遡及的に無効となる(121条)。ただし、第三者の権利を害することはできない(754条ただし書)。たとえば、夫が妻に不動産を贈与した後に取り消したが、取消し前に妻が第三者に不動産を譲り渡した場合には、夫は第三者からその不動産を取り戻すことができない。

● 民法754条の存在理由と適用制限

(1) 本条の存在理由と削除案

本条の存在理由として、夫婦間の契約の履行を訴訟の対象にすると家庭の平和を害するということがあげられる。しかし、契約が取り消されても相手方が返還しなければ訴訟になるのであるから、合理的な理由であるとは言いがたい。

実際に夫婦間の契約の取消しが問題となるのは、すでに夫婦関係が破綻している場面においてである。そのような場面においてはすでに家庭の平和はなく、むしろ裁判によって救済する必要すらある。

このように、本条は合理性に乏しいため、削除案が有力である。

(2) 判例による本条の適用制限

判例も、本条にいう「婚姻中」とは形式的に婚姻が継続しているだけではなく、実質的にも継続していることを意味するから、夫婦関係が破綻していて婚姻の実質がない場合には夫婦間の契約を取り消すことはできないとする(最判昭42.2.2)。

判例は、夫婦関係が破綻後に契約がなされた場合(最判昭33.3.6―他の女と別居中の夫が離婚後の生活保障として一切の財産を妻に贈与することを約束した事案)だけでなく、さらに、夫婦関係が破綻する前に結ばれた契約についても、破綻後には取り消すことができないと判示する(前掲最判昭42.2.2)。

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