このページの最終更新日 2016年5月28日
有効に成立した婚姻関係は、配偶者の死亡によって消滅する。夫婦の双方が生存している場合であっても、離婚によって婚姻関係は消滅する。このように、配偶者の死亡または離婚によって婚姻関係が消滅することを婚姻の解消と呼ぶ。
婚姻の解消は、婚姻関係が将来に向かってのみ消滅する点で、婚姻の取消しと似ている。しかし、婚姻の取消しが婚姻の成立過程における瑕疵を原因とするのと異なり、婚姻の解消は婚姻の成立後の事実を原因とするものである。
婚姻の解消原因は、①配偶者の死亡と②離婚の二つである。配偶者の死亡については明文の規定がない。離婚について、民法は協議上の離婚と裁判上の離婚とに分けて規定を置くが(763条以下)、民法以外にも家事審判法や人事訴訟法のなかに離婚手続きに関する規定がある。
なお、死亡には、失踪宣告による死亡擬制(31条)も含まれる。
婚姻の解消によって身分上および財産上のさまざまな効果が生じる。
(1) 身分的効果
死亡解消と離婚に共通する効果として、同居・協力・扶助義務(752条)や貞操義務が消滅し、当事者は再婚をすることができるようになる。ただし、女性にだけ、再婚禁止期間による制限(733条)が課されている。再婚後に失踪宣告が取り消された場合の問題については、重婚に関する説明を参照。
以上のほか、婚姻解消による身分上の効果として、氏と姻族関係の変動、および、離婚の場合の子の親権者・監護者の決定などがある。氏と姻族関係については、次項で説明するが、死亡解消の場合と離婚の場合とで変動のしかたが異なる。子の親権者・監護者の決定については、当該のページを参照してほしい。
(2) 財産的効果
死亡解消と離婚に共通の効果として、夫婦財産制(755条以下)の拘束が消滅することによって、婚姻費用分担義務(760条)や日常家事債務の連帯責任(761条)を負うことがなくなる。もっとも、婚姻解消の効果は遡及しないので、婚姻中に生じた財産的義務は消滅しない。
財産上の効果として重要なのは、死亡解消の場合における配偶者の相続権(890条)と、離婚の場合におけるの財産分与である。前者については相続に関するページで扱い、後者については「財産分与」のページで説明することとする。
婚姻の解消は、当事者の氏や姻族関係に変動を生じさせるが、その変動のしかたは死亡解消の場合と離婚の場合とで異なる。
(1) 復氏
婚姻の際に氏を改めなかったほうの配偶者の死亡によって婚姻が解消しても、氏を改めた生存配偶者は当然には婚姻前の氏に復しない。生存配偶者は、復氏するかどうかを自由に選択することができる(751条1項)。復氏するときは、届出をしなければならない(戸籍法95条)。
離婚による婚姻解消の場合、死亡解消とは異なり、婚姻に際して氏を改めた者は当然に婚姻前の氏に復する(767条1項、771条)。ただし、離婚の日から3ヶ月以内に届け出ることによって、離婚の際に称していた氏を称することができる(同条2項)。これを婚氏続称と言う。婚氏続称は、復氏による女性の社会的不利益や、母と子の氏が異なることの不都合への配慮から認められている。
(2) 姻族関係の終了
配偶者の死亡によって婚姻が解消しても、生存配偶者と死亡配偶者の血族との間における姻族関係は当然には終了しない。生存配偶者は、姻族関係を終了させるかどうかを自由に選択することができる(728条2項)。姻族関係終了の意思表示は、届出によってしなければならない(戸籍法96条)。
これに対して、離婚の場合には、姻族関係は当然に終了する(728条1項)。
復氏と姻族関係の終了とは、互いに無関係である。姻族関係を存続させたままで復氏することも、復氏しないで姻族関係を終了させることもできる。
(3) 祭祀財産の承継
婚姻により改氏した配偶者が祭祀財産(897条1項参照)を承継した後に離婚した場合、あるいは、祭祀財産を承継した者が配偶者の死亡後に復氏または姻族関係を終了した場合には、当事者や関係者の協議によって新たに祭祀財産の承継者を定めなければならない。協議が調わないときやできないときは、家庭裁判所が承継者を定める。(以上、769条、751条2項)