このページの最終更新日 2016年6月14日
子を養育(さらに教育)することを監護と言い、親権はその内容として子を監護する権利を有する。未成年子がいる場合、父母の婚姻中は父母が共同して親権を行使する(818条3項―共同親権)。したがって、子の監護(養育)も父母が共同して行う。しかし、父母が離婚するときには、父母のいずれか一方の単独親権となるから(819条)、離婚後の子の監護について取り決めておく必要が生じる場合がある。離婚後の子の監護に関して取り決めが必要となる事項として、子の監護者の決定や親子間の交流(面会交流)、監護に要する費用(養育費)の分担などがある(766条1項前段参照)。
父母は、離婚後の子の監護に関する事項を必要に応じて協議で定める(766条1項、771条)。父母の協議が調わないときや協議をすることができないときは、家庭裁判所が定める(766条2項)。この処分は審判によってなされるが、家庭裁判所は、当事者の陳述を聴くほか、子が15歳以上であるときにはその子の陳述を聴かなければならない(家事事件手続法152条2項)。
親権者は子を監護する権利を有するのが通常であるが、監護権だけを親権者でない者に受けもたせる場合がある(766条1項前段)。たとえば、父親に親権者として子の財産管理をさせる一方で、母親が監護者として子を引き取るような場合である。子の監護を行う者を監護者あるいは監護権者と言う。監護者は、父母以外の第三者(たとえば、祖父母や児童福祉施設)であってもよい。
親権と監護権との関係についてであるが、親権者以外の者を監護者と定めた場合には、親権の内容はそのかぎりで制約を受ける(766条4項参照)。これは、一般には、監護者の定めることによって親権から監護権の部分が切り取られ、それぞれの権利が親権者と監護者とに帰属するという関係であると解されている。つまり、監護やそれに関連する権利(居所指定権、懲戒権など)については監護者が行うが、親権者にはそれ以外の財産管理権や子の法定代理人となる権利が留保されるにとどまる。これを親権と監護権の分属と呼ぶ。
親権と監護権の分属
明治民法下では、離婚後の親権者は父であるのが原則であったが(旧877条1項)、乳幼児の監護には父よりも母のほうが適しているので、親権と監護権を切り離すことに実益があった。戦後の民法改正によって監護適格者である母親を親権者にすることができるようになったが、現在でも、父母間での子の奪い合いを収束させるための妥協案として親権と監護権の分属が利用されることがある。もっとも、親権者と監護者が対立関係にあると子に悪影響を及ぼしかねないので、実務上、監護適格者に親権を行使させることが適当であると考えられており、家庭裁判所が監護者を指定することはまれである。
離婚後に子を監護していない親がその子と交流をもつことを面会交流あるいは面接交渉と呼ぶ。面会交流は、766条の「監護について必要な事項」あるいは「監護について相当な処分」にあたるとして実務上定着していた。平成23年の本条改正により、面会交流は「父又は母と子との面会及びその他の交流」として明文によって規定されることになった。
面会交流の法的性質については、これを親の権利とする見解や子の権利であるとする見解、あるいは、権利性を否定する見解の諸説に分かれている。国連児童の権利条約9条3項は、子の権利とする。いずれにせよ、子の利益に反するような面会交流は認められない(766条1項後段)。
夫婦が離婚していないが別居状態であるときに、子を監護していない親と子との面接交渉について766条を類推適用した判例がある(最決平12.5.1)。
面会交流を具体的にどのように行うか(回数、日時、場所など)については、父母が協議で定める。父母の協議が調わないとき、または協議をすることができないときは、家庭裁判所が定める。
面会交流の取り決めがなされたにもかかわらず、それが守られない場合、協議で定めたものであるときは、調停の申立てや損害賠償請求をすることができる。調停または審判による面会交流が守られないときは、家庭裁判所が履行の勧告をするほか、再調停の申立てや損害賠償請求をすることができる。間接強制(最決平25.3.28)。
面会交流が認められる基準は、子の福祉ないし利益に適うかどうかである。非監護親との交流が子にとって有益であると判断される場合には、面会交流が認められる。
非監護親に、たとえば、暴力的である、相手の悪口を言う、子を奪取しようとするなどの問題がある場合には、面会交流を認めるべきではない。子が会うことを拒否している場合や、子の監護教育上好ましくない場合にも、面会交流は認められない。
面会交流を認める場合であっても、子への配慮から、その内容が制限されることがある。たとえば、子が一定の年齢に達するまで面会を禁止したり、監護者等などが同伴する場で面会させるなどである。
実務上、子の引渡請求として人身保護法上の手続きが用いられている(最判昭24.1.18―別居中の夫婦間、最判昭47.7.25―離婚後の父母間)。人身保護法は、人身の自由が不当に奪われているときに、それを裁判によって迅速かつ容易に回復させることを目的とする法律である(同法1条)。人身保護法にもとづいて、法律上正当な手続きによらないで身体を拘束されている者のために、その救済を請求することができる(同法2条)。
人身保護請求が認められるための要件は、①拘束の存在、②拘束の違法性が顕著であること、③他の救済方法では迅速な救済ができないことである(人身保護規則4条)。
意思能力を有する子が自由意思で拘束者のもとにとどまる場合には、拘束はないと解される。なお、人身保護規則5条参照。
子の引渡請求に人身保護法を適用するにあたっては、「子の幸福」が考慮される。監護者から非監護者に対する子の引渡請求においては、子を請求者の監護下に置くことが拘束者の監護下に置くことにくらべて子の幸福の観点から著しく不当なものでないかぎり、非監護者による拘束は権限なしにされていることが顕著である場合に該当する(最判平6.11.8)。
人身保護請求は非常応急的な救済方法であって、他の救済方法によって迅速な救済ができないことが明白であるときにかぎり認められる(人身保護規則4条ただし書)。それゆえ、子の引渡請求に人身保護法を適用するには慎重であるべきと考えられている。また、人身保護請求事件の管轄が通常裁判所にあることから、子の引渡請求に人身保護手続を用いることの妥当性を疑問視する見解もある。