このページの最終更新日 2016年5月24日
離婚をした夫婦の一方は、他方に対して財産を分け与えるように請求することができる(768条1項、771条)。これを財産分与と呼ぶ。
財産分与がどのような性格のものであるかについて議論がある。財産分与の法的性質と呼ばれる問題である。これに関して手がかりとなる規定は、民法768条の1か条しかなく、同条だけでは財産分与がどのような性格の制度であるのかが明確ではない。
財産分与の法的性質を考えるにあたっては、一般に次の三つの要素が考慮される。
① 清算的要素(清算的財産分与)
② 扶養的要素(扶養的財産分与)
③ 慰謝料的要素(慰謝料的財産分与)
①と②の二つの要素は、一般に財産分与に含まれると考えられている。③の要素が財産分与に含まれるかどうかについては、肯定する見解(包括説)と否定する見解(否定説)とに分かれる。
〔考察〕「財産分与の法的性質」論の沿革 財産分与に関する民法768条の規定は、戦後の民法改正によって新設されたものである。戦前は財産分与に関する規定は存在せず、手切れ金の慣行があるにすぎなかった。そのため、離婚によって生活が困窮する者の扶養(離婚後扶養)が古くから問題となっており、財産分与制度はそのような要請にもとづき設けられたものである。 もっとも、本条の文言を見ると、財産の「分与」であったり、「当事者双方がその協力によって得た財産」といった表現をしていることから、財産の清算という側面が強く押し出されている。 財産分与が実際に行われるようになると、今度は分与額が少ないことが問題となった。そのため、その増額を意図して慰謝料の要素が加味されるようになった。 |
民法が別産制を採用した結果、たとえば、夫が働いて得た収入やそれによって購入した資産は、夫の特有財産として扱われることになる。しかし、夫が収入を獲得する背後には妻の家事労働や育児といった努力があるのが通常であって、夫婦の一方の財産形成は他方の貢献に支えられているといってもよい。
そこで、離婚に際して夫婦の財産上の公平をはかるために、形式的には一方の特有財産とされていてもそれが夫婦の協力によって獲得されたものである場合には、実質的には夫婦の共有財産であると考えたうえでこれを清算する必要がある。
財産分与には、このように婚姻中に夫婦が協力して築いた財産を清算するという要素が含まれると解されている。この意味での財産分与を清算的財産分与と言う。
財産分与には、離婚後に生活に困る方(多くは妻)を扶養するという要素が含まれると解されている。これを扶養的財産分与と言う。
夫婦が婚姻中に負っていた扶養義務は婚姻解消によって消滅するのであるから、離婚後になぜ相手方の生活を援助しなければならないのかが問題となる。扶養的財産分与の根拠には諸説ある。