このページの最終更新日 2016年7月23日
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取得時効の対象となる権利は、主に所有権であるが(162条)、所有権以外の財産権についても時効による取得が認められている(163条)。しかし、取得時効は、財産権のすべてについて認められるわけではない。
取得時効が成立するためには継続的な権利行使(占有または準占有)がその要件とされており、したがって、取得時効の対象となる権利は、その性質上、継続的な権利行使が可能であるものにかぎられる。
以下、権利の種類ごとに個別に見ていく。
(1) 用益物権
用益物権のうち、地上権や永小作権は、土地の占有権限を含むので、取得時効の対象となる。
地役権も、継続的に行使され、かつ、外形上認識することができるものにかぎり、時効により取得することができる(283条)。通行地役権について「継続」の要件を充足するには、単なる承役地の通行では足りず、要役地所有者によって承役地の上に通路が開設されていなければならない(最判昭30.12.26)。
(2) 担保物権
約定担保物権のうち、抵当権は、目的物の占有をともなわないから取得時効の対象とはならない。これに対し、質権は、目的物の占有をともなうので、時効取得の余地がある。
法定担保物権である留置権や先取特権は、法定の要件を充足する場合にだけその成立が認められるべきであるから、これらは取得時効の対象とはならない。
(3) 債権
債権のうち、一回的な給付を目的とするものは、継続的な権利行使をしないので、取得時効の対象とはならない。取消権・解除権などの形成権も、一度の行使によって消滅するから、取得時効の対象とはならない。
債権であっても、不動産賃借権は時効取得することが認めている。
判例は、土地賃借権について、「土地の継続的な用益という外形的事実が存在し、かつ、それが賃借の意思に基づくことが客観的に表現されているとき」に、その時効取得が可能であるとする(最判昭43.10.8)。「賃借の意思に基づくことが客観的に表現されている」とは、たとえば、賃料支払いの事実が存在することである。
〔参考〕土地賃借権の時効取得に関する判例
判例によって土地賃借権の時効取得が肯定された事例は、次の三つに類別することができる。
① 土地所有者との賃貸借契約が法令違反により無効である場合に賃借権の時効取得を認めたもの―最判昭45.12.15、最判平16.7.13
② 無権限の第三者から土地を賃借した場合に賃借権の時効取得を認めたもの―最判昭52.9.29、最判昭62.6.5
③ 賃貸人に無断で賃借人が転貸借をした場合に転借権の時効取得を認めたもの―最判昭44.7.8
(4) 占有権
占有権は、物の事実的支配にもとづいて認められる権利であるから、その時効取得を問題とする余地はない。
(5) 身分権
身分権は、身分法上の地位にもとづいて認められる権利であるから、その性質上、取得時効の対象にならない。
(6) 知的財産権
知的財産権のうち、著作権については、取得時効成立の余地がある(最判平9.7.17)。これに対して、特許権など、登録によって発生する権利については時効取得することができないと考えられる。
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