制限行為能力者が取引の相手方を騙して自らが行為能力者であると相手方に誤信させたような場合にまで、制限行為能力者を保護する必要はなく、むしろ相手方の信頼を保護すべきである。
それゆえ、民法21条は、行為の際に詐術を用いた制限行為能力者はその行為を取り消すことができない旨定めている。
本条適用の要件は、次のとおりである。
① 行為能力者であることを相手方に信じさせるためであること
② 詐術を用いたこと
③ 相手方が詐術によって行為能力者であると誤信したこと
① 行為能力者であることを相手方に信じさせるためであること
自らが行為能力者であると信じさせようとした場合だけでなく、保護者(法定代理人など)の同意を得たと信じさせようとした場合にも本条が適用される(大判大12.8.2)。
② 詐術を用いたこと
本条にいう「詐術」とは、年齢を証明する書類を偽造してそれを提示するなど積極的に術策を弄する場合だけにかぎらず、制限行為能力者が自らを行為能力者である(あるいは、制限行為能力者ではない)と相手方に誤信させるような発言をする場合を含む(大判昭8.1.31―「自分は相当の資産信用を有するので安心して取引してほしい」旨の陳述は、自らが能力者(行為能力者)であると言うのと異ならないから、詐術を用いた場合に該当する)。
単なる黙秘は詐術にあたらない。しかし、判例は、無能力者(制限行為能力者)であることを黙秘していた場合であっても、それが無能力者の他の言動とあいまって、相手方を誤信させ、または誤信を強めたときは詐術にあたるとする(最判昭44.2.13―単に準禁治産者であることを黙秘していた場合は詐術にあたらない)。
③ 相手方が詐術によって行為能力者であると誤信したこと
詐術の結果として相手方が誤信するにいたったことが必要である。相手方の誤信を惹起させた場合だけでなく、誤信を強めた場合をも含む(上掲最判昭44.2.13)。
制限行為能力者であることを相手方が知っていた場合には、相手方保護の必要がないので、本条は適用されない。したがって、その場合には、詐術を用いた制限行為能力者であっても自らがした行為を取り消すことができる。