このページの最終更新日 2020年12月12日
権利・義務の主体となることができる資格を権利能力(けんりのうりょく)という。
人間は皆、この権利能力を有する*。しかし、人間以外の動物は権利能力が認められないので、たとえばペットの犬に財産をやることはできない。(法律上、ペットは「物」として扱われる。)
権利能力は、個人(自然人⁑)に対して認められるだけでなく、一定の団体に対して与えられることもある。団体(法人)の権利能力を「法人格」と呼ぶこともある。
*外国人(日本国籍を有しない者、無国籍者を含む。)も原則として権利能力を有するが、法令または条約による禁止・制限が認められている(3条2項)。
⁑法律学では、人間のことを自然人(しぜんじん)と呼ぶ。
自然人は、出生(しゅっしょう)と同時に権利能力を取得する。
民法は、このことを「私権の享有〔きょうゆう〕は、出生に始まる」と表現する(3条1項)。
自然人は、死亡と同時に権利能力を失う。死亡以外の原因によって権利能力を喪失することはない。
人の死亡によって、相続の開始(882条)や婚姻関係の終了などの重要な効果が生じる。
なお、失踪宣告を受けた者は死亡したものとみなされる(31条)。
胎児(たいじ)は、まだ出生していないので、権利能力を有しないのが原則である。
しかしそうすると、出生の時期が少し早いか遅いかという偶然の事情によって権利・財産を取得できるかどうかが左右されることになる*。これは、不合理である。
そこで民法は、不法行為にもとづく損害賠償請求・相続・遺贈に関して、胎児はすでに「生まれたものとみなす」ことにした(721条・886条1項・965条)。
もっとも、胎児が死産したときには、これらの規定は適用されない(886条2項)。
*たとえば、子が親の財産を相続するためには、親の死亡=相続開始の時点ですでに権利の主体として存在していなければならない。胎児の出生が親の死亡よりも早ければ親の財産を相続することができるが、遅ければ相続することができない。
「既に生まれたものとみなす」の意味
721条・886条1項(965条)の「既に生まれたものとみなす」の意味について解釈が分かれる。
① 停止条件説(人格遡及説)
胎児は、胎児である間はまだ権利能力がなく、生きて生まれたときに初めて権利発生の時点にまで遡って権利能力が認められると解する説である。
生まれる前の胎児はまだ権利の主体ではないので、胎児に代理人をつけることはできない。判例は、この考え方に立つ(大判昭7.10.6―阪神電鉄事件)。
② 解除条件説(制限人格説・人格消滅説)
胎児である間でも制限的に権利能力が認められるが、胎児が死産したときには権利能力がはじめからなかったことになると解する説である。登記実務の立場である。
生まれる前の胎児であっても権利の主体となることができるので、胎児に代理人をつけてその権利を保全することが可能となる。もっとも、現行法上、胎児のための法定代理を認める制度は存在しない。
たとえば、資産家Aとその子Bがある災難に遭遇して二人とも死亡した場合を考えると、AとBのいずれが先に死亡したかによって相続関係が変わってくる。
もしAとBの死亡の時期の先後関係が明らかにできなければ、死亡後の法律関係を確定することが不可能になり、相続をめぐる紛争を解決することができない。
この問題に関して民法は、数人の者が死亡した場合においてこれらの死亡の時期の先後関係が明らかでないときには、これらの者は同時に死亡したものと推定することにした(32条の2)*。
同時に死亡した者どうしは、互いに相続人にならず、それらの者の間の遺贈も効力を生じない(887条・994条参照)。
*同時死亡の推定は、あくまで「推定」にすぎず、死亡の先後関係を証明することによって推定をくつがえすことができる。
次の各文を読んで、その内容が正しければ〇、間違っていれば✕と答えなさい。
(1) 個人以外のものは、権利・義務の主体となることができない。
(2) 生まれる前の胎児であっても、不法行為にもとづく損害賠償請求、相続および贈与に関しては、すでに生まれたものとみなされるので権利能力を有する。
(3) 数人の者が死亡した場合においてこれら者の死亡の時期の先後関係が明らかでない場合であっても、これらの者が同一の機会によって死亡したのでなければ、同時死亡の推定が適用されることはない。
ヒント
(1) 個人のほかに団体も権利義務の主体となりうる。
(2) 胎児の出生が擬制される法律関係は、不法行為にもとづく損害賠償、相続、遺贈の三つである。贈与ではない。
(3) 同時死亡の推定が適用されるのは、同一の機会によって死亡した場合にかぎられない。
(1) ✕
(2) ✕
(3) ✕