このページの最終更新日 2016年2月16日
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代理は、代理権の発生原因によって法定代理と任意代理の2つに分類される。
(1) 任意代理とは
本人の意思にもとづいて代理権が生じる場合を任意代理と呼び、その代理人を任意代理人と呼ぶ。
たとえば、本人が自己所有の不動産を第三者に売却することを他人に委任するときには、その他人に対して不動産売却のための代理権が与えられる。この場合の他人は、任意代理人である。
(2) 法定代理とは
これに対して、本人の意思にもとづかずに代理権が生じる場合を法定代理と呼び、その代理人を法定代理人と呼ぶ。(法定代理は、「法律の規定によって代理権が与えられる場合」というように定義されることもある。)
たとえば、未成年者の親権者や成年後見人には、法律の規定によって包括的な代理権が与えられている(824条、859条1項)。つまり、親権者や成年後見人は、法定代理人である。
法定代理における代理権は、法律に規定されている場合に発生する。場合分けして表にまとめると、次のようになる。
【表】法定代理における代理権の発生
本人と一定の関係にある者が法律上当然に代理人になる場合 | 818条・819条3項本文(親権者) |
本人以外の者の協議または指定によって代理人を定める場合 | 819条1項・3項但書・4項(親権者)、839条(指定後見人)、1006条1項(遺言執行者) |
裁判所が代理人を選任する場合 | 25条1項・26条(不在者の財産管理人)、819条2項・5項・6項(親権者)、840条1項・2項(未成年後見人)、918条2項・952条1項(相続財産管理人) |
家庭裁判所の審判によって代理権が与えられる場合 | 876条の4第1項(保佐人)、876条の9第1項(補助人) |
任意代理における代理権は、本人が代理人となる者に対して代理権を授与することによって発生する。
(1) 代理と委任の関係
民法は、任意代理のことを「委任による代理」と表現している(104条、111条2項)。これは、民法起草者が任意代理における代理権を常に委任契約(643条)から発生するものと考えたからである。
たとかに、委任契約は任意代理における代理権発生の典型的な場合である。しかし、委任契約は必ずしも代理権授与をともなうものではなく、また、代理権は委任契約以外を原因として生ずることもあるのだから、任意代理のことを「委任代理」と呼ぶのは適切ではない。
委任のほかに代理権を生ずる原因としては、雇用・請負・組合などがある。
(2) 代理権授与行為
任意代理における代理権発生のメカニズムに関して、二つの異なる立場がある。
一つは、委任契約などの代理人が本人のための事務処理をすることを内容とする契約(事務処理契約)が締結されたときに、その契約から直接に代理権が発生すると考える立場である。委任契約とは独立に代理権を授与するための行為を観念しない。
もう一つは、委任契約とは別個独立の代理権の発生自体を目的とする行為(代理権授与行為ないし授権行為)を観念し、それにもとづいて代理権が発生すると考える立場である。この立場のなかで、さらに、代理権授与行為の性質をどう考えるかについて見解の相違があり、無名契約であるとする説と単独行為であるとする説がある。
代理権授与行為の性質に関する論争については、この論争自体の実益を疑問視する向きもある。しかし、現行代理制度についての一般的理解のもとでは、代理権授与行為の性質の捉え方によって具体的問題における結論が異なることがある。
〔考察〕代理権授与行為の性質
代理権授与行為(授権行為)の性質の捉え方によって、代理人から本人・代理人間の委任契約の取消しがなされたときの取引相手方の保護のしかたに違いが生じる。
(1) 単独行為説
本人からの取消しが代理権の付与を含めた委任関係の消滅を目的とするのとは異なって、代理人にとっては、受任者としての義務ないし責任を免れればよく、代理権が消滅すること自体に利益はない。そこで、授権行為は本人の単独行為であると考えることによって、代理人からの授権行為の取消しを否定するのが本説である。
代理行為が行われた後に委任契約が代理人側の事情(代理人の行為能力の制限や意思表示の瑕疵)によって取り消されても(遡及的に無効となる)、授権行為自体は有効のままであるから、代理の効果には影響を与えない。このように、本説は、代理人側の事情によって授権行為の効力が否定されないように構成することによって、取引の安全を図ることを意図している。
(2) 事務処理契約説
単独行為説が代理権に関して取消しの効力(遡及的無効)を否定することによって取引の安全を図るのとは対照的に、本説は、代理権授与行為の独自性を認めず、したがって委任契約が取り消されるとそれにともない代理権も遡及的に消滅すると考える。そのうえで、表見代理の適用によって善意無過失の相手方の保護をはかる。
単独行為説によれば、代理人からの委任契約の取消しがあった後も(本人が撤回しないかぎり)代理権が存続することになるから、取消し後に相手方が取消しがあったことを知ったうえでなされた代理行為まで有効になってしまう。取引の安全を図るという目的から考えると、委任契約の取消しによる代理権の遡及的消滅を認めたうえで、表見代理の適用によって善意無過失の相手方のみ保護することにしたほうが適切である。
ところで、委任契約の取消しによる代理権の遡及的消滅を認めると、取消し前に代理人がした行為は取消しによって無権代理行為となる。たとえば、本人が制限行為能力者であることを理由に代理人との間の委任契約を取り消したという場合に、代理権が遡及的に消滅することによって代理人が相手方とした行為は無権代理行為となり、代理人は相手方との関係で無権代理人としての責任(117条、無過失責任)を負うことになる。代理人が本人が制限行為能力者であることを知っていたか否かにかかわらず、この責任を負わされる結果となるのは、代理人にとって酷であると言える。
(3) 無名契約説
この説は、代理権という物権的な地位の付与は債権契約によって行うことはできないという理論的前提に立ち、債権契約である事務処理契約とは別個に代理権授与契約(無名契約)を観念する必要であるとする。この説に対しては、二つの契約を区別する実益がないという批判がなされる。
(3) 委任状の交付
実務上、委任契約を締結する(代理権を授与する)際に、本人から代理人に対して委任状が交付されることが通例となっている。しかし、法的には代理権を授与する行為には特定の方式が要求されていないのであって(不要式行為)、委任状の交付がなくとも代理権の授与をすることができる。黙示の代理権の授与も認められる。
代理人が本人のために法律行為を行ったとしても、その行為が代理人の権限(代理権)の範囲内に属していないときは、当然には本人に行為の効果は帰属しない。代理権の範囲外でなされた代理人の行為は、無権代理となる。
代理権の具体的な範囲がどのように定まるかについては、法定代理の場合と任意代理の場合とで異なる。
(1) 法定代理の場合
法定代理における代理権の範囲は、各々の種類の法定代理人について個別的に法定されている(例、親権者―824条、後見人―859条、不在者の財産管理人―28条)。権限の範囲が定められていない場合には、民法103条の定めるところによる。
(2) 任意代理の場合
任意代理における代理権の範囲は、まず、代理権の発生根拠である契約ないし代理権授与行為の解釈によって定まる。そして、それらの法律行為の解釈によっても代理権の範囲を明らかにできない場合には、103条の定めるところによって決まる。
(3) 代理権の範囲が定められていない場合
法によって代理権の範囲が定められていない場合や、当事者間の法律行為の解釈によって代理権の範囲を明確にすることができない場合には、民法103条が本人の財産管理について代理人がなしうる行為の範囲を定めている。
すなわち、権限の定めのない代理人(権限の範囲が不明確である場合も含む。)は、①保存行為(同条1号)、②利用行為および③改良行為(同条2号)のみを行う権限を有する。これらをまとめて管理行為と呼ぶ。管理行為は財産の現状や性質を変更しないでなしうる最大限の行為である。
〔参考〕処分行為
財産の現状や性質を変更する行為を処分行為と呼ぶことがあるが、これは債権行為に対置される処分行為の概念とは異なる。
管理行為の具体例は、次の表のとおりである。
【表】管理行為の種類
保存行為 |
財産の現状を維持する行為 (例) 家屋の修繕、消滅時効の中断、腐敗しやすい物の処分、履行期が到来した債務の弁済、権利の登記、応訴 |
利用行為 |
財産の性質を変えない範囲内で収益を図る行為 (例) 家屋を賃貸する、現金を銀行に預金する |
改良行為 |
財産の性質を変えない範囲内でその価値を増加させる行為 (例) 家屋に造作を施す、無利息の貸金を利息付きに改める |
これらの行為が許されているのは、本人の財産を害するおそれがない行為だからである。勝手に家屋を売却したり、リスクある金融商品に投資したりするような財産の現状または性質を変更する行為は許されない。もっとも、腐敗しやすい物の処分や履行期到来の債務の弁済のように、厳密には処分行為であるが、本人の不利益になるおそれがない行為は、保存行為として許される。
なお、戦災による損害回避の目的で家屋を売却換価する行為は、民法103条の保存行為にあたらないとした判例がある(最判昭28.12.28)。
代理権の消滅原因には、法定代理と任意代理に共通するものと、それぞれの代理に特有のものとがある。
(1) 共通の消滅原因
共通の消滅原因(111条1項)は、次のとおり。
① 本人の死亡(1号)
② 代理人の死亡、または、代理人が破産手続開始の決定もしくは後見開始の審判を受けたこと(2号)
代理権は、本人の信任にもとづき(任意代理)、あるいは、本人を保護するために(法定代理)発生するのであるから、本人の死亡によって代理権は当然に消滅する。もっとも、特約によって本人の死亡後も代理権が存続する旨を定めることもできる。
代理人は、本人から信頼されて(任意代理)、あるいは、その者の地位にもとづいて(法定代理)代理権を与えられているのであるから、代理人が死亡すれば代理権は消滅する。また、代理人について破産手続開始の決定や後見開始の審判が行われることは、代理人に対する信頼を失わせることになるから、これらも代理権の消滅事由になる。
もっとも、後見開始の審判を受けたことを理由とする代理権の消滅は、代理人となった後に審判を受けた場合にかぎられる。代理人となるのに行為能力は不要であるから(102条)、すでに後見開始の審判を受けている者を代理人として選任することは可能である。
〔参考〕商法506条
商行為の委任による代理権は、本人の死亡によって消滅しない(商法506条)。商取引の継続性を重視するためである。もっとも、代理人が死亡した場合には、代理権は消滅する。
(2) 法定代理に特有の消滅原因
法定代理に特有の消滅原因は、法定代理の種類ごとに個別的に規定されている(例、親権者―834条・835条・837条1項、後見人―846条、不在者の財産管理人―25条2項、26条)。
(3) 任意代理に特有の消滅原因
任意代理に特有の消滅原因は、「委任の終了」である(111条2項)。委任は、民法653条に定める原因によって終了するほか、解除(651条)や取消し、当事者間の特約で定めた事由の発生(たとえば、一定の期間の経過後に消滅する旨を定めるなど)によっても終了する。委任以外の契約にもとづく代理権も、その終了によって消滅する。
〔参考〕委任の終了事由(653条)
① 委任者(本人)または受任者(代理人)の死亡(1号)
② 委任者または受任者が破産手続開始の決定を受けたこと(同条2号)
③ 受任者が後見開始の審判を受けたこと(3号)
111条1項(共通の消滅原因)との違いは、委任者(本人)の破産手続開始決定が終了事由に含まれていることである。
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