このページの最終更新日 2015年12月17日
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無権代理行為の効果は、本人に帰属しないのが原則である(113条1項)。ただし、無権代理行為の効力が完全に否定されるわけではなく、本人への効果の帰属が不確定の状態にあるにすぎない。それゆえ、無権代理行為の効果を不確定無効などと言うことがある。
無権代理行為は、本人の追認または追認拒絶によってその効果の帰属の有無が確定する(同条)。すなわち、本人がその行為を追認したときには本人にその効果が帰属し、本人が追認を拒絶したときには本人に効果が帰属しないことが確定する。
一方で、無権代理行為の相手方は、本人に追認するかどうかの確答を催告する権利を有する(114条)。また、相手方は、本人が追認する前に無権代理による契約を取り消すことも可能である(115条)。
(1) 追認権
本人は、無権代理行為を追認することによってその効果を自己に帰属させることができる(113条1項)。本人が効果を帰属させてもよいのであれば、それを否定する理由はないので、本人による追認の余地を認めている。
本人が無権代理行為を追認した場合であっても、無権代理行為自体に無効原因または取消原因があるときは、本人はその行為の無効または取消しを主張することができる。なお、追認権は、相続することができる。
無権代理行為が取消しなど単独行為である場合、相手方が自称代理人がその行為をすることに同意し、またはその代理権を争わなかったときにかぎり、本人はその行為を追認することができる(118条前段)。
ちなみに、判例は、身分行為についても、他人が勝手にした行為を追認しうる場合があることを認めている(最判昭27.10.3―代諾養子縁組、最判昭47.7.25―婚姻の届出)。
(2) 追認拒絶権
本人は、追認を拒絶することもできる(113条2項)。追認拒絶は、効果を帰属させないという本人の意思表示であって、追認拒絶をすると効果不帰属に確定し、以後、本人は追認をすることができなくなる。
追認は、相手方のある単独行為であって、無権代理行為の相手方または無権代理人のどちらに対して行ってもよいと解されている。ただし、無権代理人に対して追認した場合、相手方が追認の事実を知ったときでなければ、相手方に対抗することができない(113条2項)。したがって、相手方は、追認がなされた事実を知るまでの間は、契約を取り消すことができる(115条)。
追認の意思表示は、明示でも黙示でもよい。追認拒絶の相手方についても、追認と同様である。
(1) 遡及効
追認の効力は、無権代理行為の時にまでさかのぼる(116条本文)。つまり、代理権が存在していた場合と同じように、当初から本人に行為の効果が帰属していたことになる。このような遡及効が認められているのは、本人の意思を推測し、また、相手方の期待に反しないようにするためである。
(2) 遡及効の例外
例外的に追認の遡及効が制限される場合が二つある。まず、①本人の遡及させないという別段の意思表示がある場合には、遡及効が生じない(116条本文)。ただし、遡及効の制限が相手方の期待に反することもあるので、相手方の同意を必要とする(通説)。
次に、②追認の遡及効によって第三者の権利を害することはできない(同条但書)。無権代理行為から追認までの間に取引関係に入った第三者を保護する趣旨であるが、実際に問題となる場面はかぎられている。
例として、A所有の不動産をBが無権代理によってCに譲渡した後に、Aがその不動産をDに譲渡したという場合を考えてみる。この場合にAがBの無権代理行為を追認すると、不動産の権利がCとDに二重譲渡されたことになるが、遡及効を認めるか否かによって権利取得時期の先後関係に違いが生じてくる。しかし、CDどちらが権利を取得するかは、取得時期の先後ではなく、登記(対抗要件)の有無によって決まる(177条)のであるから、116条ただし書を適用して遡及効を制限することは意味がない。
〔参考〕最判平9.6.5
無権代理に関するものではないが、民法116条の遡及的有効が問題となった判例である。
①Aが譲渡禁止特約付きの債権をその特約につき悪意または重過失のBに譲渡し、Aは債務者Cに対して債権譲渡の通知をした。②その後、国(税務署)がAの本件債権に対して滞納処分による差押えをしたが、③後日、CはAからBへの債権譲渡(①)について承諾したという事案。
譲渡禁止特約のある債権について譲受人(B)がその特約の存在を知り、または重大な過失により知らないでこれを譲り受けた場合には、譲受人は直ちにその債権を取得することはできないが、その後、債務者(C)が債権の譲渡について承諾を与えたときは、債権譲渡は譲渡の時にさかのぼって有効となる。しかし、「民法116条の法意に照らし」、第三者の権利を害することはできない。したがって、承諾前に差押えをした国に対しては、債権譲渡の効力を主張することができない。
他人の所有物(権利)を、その代理人としてではなく、自己がその売主となって売却することを他人物売買(他人の権利の売買)と言う。他人の物(権利)を自己の売買の目的とする契約は有効であるが、もちろん権利は当然には移転しない。売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う(560条)。
他人物売買は、法的には無権代理と区別することができるが、社会的な事象として見るならば、無権代理との差はごくわずかである。構造的にも両者は類似している(代理権の付与か権利の移転かの違いにすぎない)。それゆえ、両者の法的な取り扱いに大きな差異があることは適当ではない。
本来であれば、他人物売買においては、真の権利者から売主に権利が譲渡された後に売主から買主に権利が移転するのであり、その効果は売却時にさかのぼるものではない。しかし、判例は、他人物売買において真の権利者が追認した場合にも116条を類推適用して、目的物の所有権は売却時にさかのぼって真の権利者から買主に直接に移転することを認める(最判昭37.8.10)。
無権代理をめぐる法律関係は本人が追認または追認拒絶するまでの間は未確定な状態のままであるから、無権代理行為の相手方はその間、不安定な地位に置かれることになる。そこで、民法は、相手方のほうから不安定な状態を解消する手段として、催告権と取消権を認めている。
(1) 相手方の催告権(114条)
まず、相手方は、本人に対して、相当の期間を定めてその期間内に追認するかどうかを確答するように催告することができる(114条前段)。その期間内に本人からの確答がなかったときは、本人が追認拒絶したものとみなされる(同条後段)。相手方は、無権代理について善意か悪意かを問わず、この催告権が認められる。
(2) 相手方の契約取消権(115条)
相手方は、本人が追認する前であれば、無権代理人との契約を取り消すことができる(115条本文)。ただし、相手方が契約時に無権代理であることを知っていたときは取り消すことができない(同条但書)。相手方が善意である場合にかぎり、法律関係からの離脱を認める趣旨である。取消しがなされた以後は、相手方は無権代理人の責任(117条)を追及することができなくなる。しかし、不法行為責任(709条)の追及は可能である。
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