このページの最終更新日 2021年2月2日
意思表示(いしひょうじ)とは、一定の法律効果を欲する意思を外部に表現する行為をいう。
たとえば、物の所有者が誰かに対してその物をいくらで「売りたい」と述べ、その相手方が所有者に対して「それを買いたい」と応えたとき、双方の思惑が一致して売買契約が成立する。
ここでの「売りたい」「買いたい」という表現行為が意思表示であって、売買契約(法律行為)の成立によって生じる権利の変動(法律効果)を意欲してなされる。
意思表示と法律行為とは、一応区別される概念である。
法律行為は、意思表示を不可欠の要素として成立し、原則として意思表示の内容どおりの法律効果を生じさせる法律要件である。➡法律行為とは
そして、意思表示の効力の有無は、法律行為の効力にそのまま影響する。
【図】意思表示と法律行為
意思表示は、「動機→効果意思→表示意思→表示行為」というように、4つの要素が段階的に成立するプロセスを経て形成される。
【図】意思表示の形成過程
意思表示の要素として重要なのは、効果意思と表示行為の二つである。
(1) 効果意思
効果意思(こうかいし)は、一定の法律効果を欲する意思である*。
法律上の効果=権利・義務の発生を意欲する意思であるから、人と会う約束のような単なる道義上の約束には効果意思があるとはいえない。
*内心的効果意思、内心の意思あるいは真意ともいう。
(2) 表示行為
表示行為(ひょうじこうい)は、内心の効果意思を外部に表現する行為である。
少なくとも表示行為があれば、効果意思がなくても意思表示は存在する*。内心の効果意思の存否は、後述する意思表示の効力の問題となる。
表示行為は、原則としてその形式を問わず、口頭でも書面でもよい。ただし、遺言などの要式行為の場合には一定の方式が要求される。
また、表示行為には外形的に明確なものとそうでないものとがあり、前者を明示の意思表示、後者を黙示の意思表示と呼ぶ。
*意思表示の要件として表示意思(効果意思を表現しようとする意思)が必要であるかは議論がある。通説は、不要とする。
動機(どうき)は、効果意思を形成するにいたった心理的な原因である。
伝統的な意思表示理論によると、動機は意思表示の要素には含まれない。
動機は千差万別であって外部からわかりにくいため、これを意思表示の効力において考慮すると取引の安全を害することになるからである。
しかし、動機をまったく無視して考えるのも適当ではなく、例外的に意思表示の効力に影響する場合もあることが認められている(95条参照)。
意思表示が存在するといえる場合であっても、意思表示になんらかの瑕疵(かし)があるために、その効力が否定されることがある。その瑕疵は、大きく二つに分けられる。
(1) 意思の不存在
一つは、表示行為に対応する効果意思が存在しない場合であり、これを意思の不存在または意思と表示の不一致という。
【図】意思の不存在
(2) 瑕疵ある意思表示
もう一つは、表示行為に対応する効果意思は存在するが、その効果意思を形成する際の動機に瑕疵がある場合であり、これを瑕疵ある意思表示という。
【図】瑕疵ある意思表示
意思主義と表示主義
意思表示に瑕疵がある場合の意思表示の有効性については、意思主義と表示主義という二つの異なった考え方がある。
意思主義は内心の意思を重視して意思表示の効力を否定する考え方であり、表示主義は表示行為を重視して意思表示を有効とする考え方である。意思主義は表意者の保護に役立つが、相手方の信頼の保護や取引の安全という観点からは表示主義が望ましい。
民法は、基本的には意思主義の立場から内心の意思を欠く意思表示の効力を否定するが、一定の場合には意思主義を制限して例外的に意思表示を有効としたり、無効の主張を制限したりしている。
婚姻や養子縁組などの身分上の法律行為(身分行為)については、表意者本人の意思を最大限に尊重するべきであるから、意思の不存在に関する93条~95条の適用はなく、真意がない意思表示は常に無効とされる。
また、詐欺・強迫による身分行為については、個別の規律が存在する(747条・764条・808条・812条)。
次の各文を読んで、その内容が正しいときは〇、間違っているときは✕と答えなさい。
(1) 当事者のした意思表示の内容が法律行為の内容となり、その内容どおりの法律効果が発生する。
(2) 表示行為があれば、それに対応する内心の効果意思がなくても、意思表示が成立する。
(3) 意思表示が詐欺または強迫によってなされた場合、表示行為に対応する内心の効果意思は存在しない。
【解説】
(1) たとえば、「その土地を〇〇円で買いたい」と「その条件で売りたい」という意思表示が存在すれば、その内容で売買契約が成立し、その内容どおりの権利・義務が発生する。
(2) 意思表示の成立には表示行為の存在だけで足り、効果意思の有無は意思表示の有効性の問題となる。
(3) 詐欺・強迫による意思表示は、表示行為に対応する効果意思が存在するが、その形成過程(動機)に瑕疵がある。たとえば、偽物を本物であると信じたことや、契約すれば危害が加えられるのを避けられると思ったことを動機とする意思表示は、いずれも契約をしようとする意思(効果意思)は一応存在する。
(1) 〇
(2) 〇
(3) ✕