このページの最終更新日 2020年12月22日
取得時効が成立するためには、占有状態が一定期間継続することが要件となる。
占有継続の期間(取得時効期間)は、①通常の場合は20年(162条1項)、②占有の開始の時に善意無過失である場合は10年である(同条2項)。
二つの異なる時点のそれぞれにおいて占有をした事実が証明されたときは、占有はその間継続していたものと推定される(186条2項)*。
したがって、取得時効の要件である占有継続があったと認められるためには、起算点における占有の事実と20年または10年経過以後の時点における占有の事実とを証明すれば足りる。
*法律上の事実推定であって、占有継続を否定する側が証明責任を負う。
占有は、法定の期間途切れずに継続されなければならない。
取得時効が完成する前に、①占有者が任意にその占有を中止したり、または、②他人にその占有を奪われたりしたときは、取得時効は中断する(164条)。これを自然中断という。
もっとも、他人の侵奪行為によって占有を喪失した場合であっても、占有回収の訴えによって占有を回復したときには、占有は継続していたものとみなされる(203条ただし書)。
取得時効の起算点は、占有を開始した時点である。
判例は、取得時効の基礎たる事実(占有)が法定の時効期間以上に継続した場合であっても、必ずその開始した時点を起算点として時効完成の時期を決定すべきであって、取得時効を援用する者が任意に起算点を選択して時効完成の時期を早めたり遅らせたりすることはできないとする(最判昭35.7.27)。
短期取得時効(10年の取得時効)が成立するためには、占有者が占有開始時において善意・無過失であることを要する(162条2項)。
善意とは、占有者が占有物について自己に所有権がないことを知らないこと、つまり、自己に所有権があると信じることであり、無過失とは自己に所有権があると信じることについて過失がないことである。
民法186条1項によって占有者が善意であることは推定されるが、無過失であることは推定されない(大判大8.10.13)。したがって、短期取得時効を主張する者は、自らが無過失であることを証明しなければならない。
なお、占有者は占有の開始の時に善意・無過失であればよく、占有継続の途中で悪意に変わっても10年の取得時効の成立を妨げない(大判明44.4.7)。
占有は、承継することができる。占有の承継人は、自己の占有のみを主張するか、または、自己の占有に前の占有者の占有をあわせて主張するかを自由に選択することができる(187条1項)。
たとえば、AからBに不動産が譲渡され、Aが4年間、Bが7年間継続して占有していた場合、どちらも占有開始時に善意無過失であるときは、Bは、自己の占有期間にAの占有期間を合算した11年の占有継続を理由に短期取得時効を主張することができる。
民法187条1項は、売買による譲渡のような特定承継だけでなく、相続のような包括承継にも適用される(最判昭37.5.18)。
前の占有者の占有をあわせて主張する場合には、その瑕疵*をも承継する(187条2項)。
前の占有者が悪意または有過失であった場合には、たとえ占有承継人が占有開始時に善意無過失であったとしても、あわせて主張する占有は悪意または有過失となる。
*悪意や有過失、強暴、隠匿、他主といった占有の態様のこと。
前の占有者が占有開始の時点で善意無過失であったが、占有承継人が悪意または有過失であった場合が問題となる。
占有主体に変更がない場合には、短期取得時効の要件としての占有者の善意無過失は占有開始の時点で判断され、占有継続の途中に悪意に変じても時効の成立に影響しない。
このことは、占有主体に変更があって、占有承継人が承継した占有をあわせて主張する場合にもあてはまる。
すなわち、あわせて主張する占有期間全体の最初の占有者についてその占有開始の時点において善意無過失であると判断されれば、その占有の承継人が悪意または有過失であっても、短期取得時効が成立する(最判昭53.3.6)。
次の各文を読んで、その内容が正しければ〇、間違っていれば✕と答えなさい。
(1) 取得時効は、時効完成に必要な期間を満たすかぎり任意の時点を起算点とすることができる。
(2) 占有者が占有の開始時に善意無過失であっても、途中で悪意に変わった場合には短期取得時効の主張ができなくなる。
(3) 前の占有者が悪意であった場合、その占有を承継した者が善意無過失で10年間占有を継続したとしても、その者は10年の取得時効を援用することはできない。
(4) 悪意または有過失の者が善意無過失の者の占有を承継した場合、前主の占有に瑕疵のないことも承継する。
ヒント
(1) 取得時効の起算点は、占有を開始した時点に固定されており、当事者が自由に選択することはできない(最判昭35.7.27)。
(2) 短期取得時効が成立するためには、占有者が占有開始の時点で善意無過失であればよい。
(3) 占有承継人は、自己の占有のみを主張することができるので(187条1項)、自己の占有だけで短期取得時効の要件を満たすのであれば、それを援用することができる。
(4) 最判昭53.3.6。悪意または有過失の者が自己の占有に瑕疵のない占有をあわせて主張する場合、あわせた占有期間全体にわたって瑕疵のない占有者となる。
(1) ✕
(2) ✕
(3) ✕
(4) 〇