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取得時効の適用範囲

このページの最終更新日 2020年12月23日

1 長期取得時効と短期取得時効

時効期間による要件の違い

取得時効は、権利行使の状態を一定期間継続した者がその権利を取得することを認める制度である(162条・163条)。

取得時効の完成に必要な期間(時効期間)は、20年または10年である。20年の場合を長期取得時効、10年の場合を短期取得時効と呼ぶ。

短期取得時効が適用されるためには、占有者が占有開始の時点で善意無過失であることを要する(162条2項)。

なお、短期取得時効の適用は、取引行為による占有取得の場合に限定されず、また、動産占有についても認められる(判例・通説)。

2 取得時効の対象物の範囲

自己の物の時効取得

民法162条は、取得時効の対象を「他人の物」と規定している。

しかし、時効制度の趣旨(永続した事実状態の尊重、証明困難の救済)や取得時効の機能する場面*を考えると、自己の物についての取得時効を認めるべきである。判例も、自己の物についての取得時効を認める(最判昭42.7.21)。

判例は、契約当事者間での取得時効の主張をも認める(最判昭44.12.18)。しかし、これに対しては、売買契約当事者間での取得時効の主張を認めてしまうと、売主の同時履行の抗弁権(533条)が機能せず、契約当事者間の公平を害するという批判もある。

*不動産の二重譲受人間の優劣問題(取得時効と登記の問題)や境界紛争など。

物の一部の時効取得

一筆の土地の一部のような物の一部についても取得時効が成立する(大連判大13.10.7)。

公物の時効取得

道路や公園、河川のように、公の目的に供用される物を公物という。公物が取得時効の対象となるかが問題となる。

判例には、公共用財産(公物)について黙示の公用廃止があったとして取得時効の成立を認めたものがある(最判昭51.12.24)。

3 取得時効の対象となる権利

所有権その他の財産権

取得時効の対象となる権利は、主に所有権であるが(162条)、所有権以外の財産権についても時効による取得が認められている(163条)。

しかし、財産権のすべてについて取得時効が認められるわけではない。取得時効の対象となる権利は、継続的な行使が可能である性質のものにかぎられる。

制限物権

用益物権のうち、地上権や永小作権は、土地の占有権限を含むので、取得時効の対象となる。地役権も、継続的に行使され、かつ、外形上認識することができるものにかぎり、時効により取得することができる(283条)。

担保物権のうち、抵当権は目的物の占有をともなわず、留置権や先取特権は法定の要件を充足する場合にだけ認められるべきであるから、これらは取得時効の対象とはならない。質権については、取得時効成立の余地がある。

債権

債権のうち、一回的な給付を目的とするものは、その性質上、取得時効の対象とはならない。取消権・解除権などの形成権も、一度の行使によって消滅するから、同様である。

不動産賃借権のように時効取得を認めうる債権もある。

判例は、土地賃借権について、「土地の継続的な用益という外形的事実が存在し、かつ、それが賃借の意思に基づくことが客観的に表現されているとき」に、その時効取得を認めている(最判昭43.10.8)。

その他の財産権

占有権は、物の事実的支配(占有)によって認められる権利であるから、取得時効を問題とするまでもない。

身分権は、身分法上の地位にもとづいて認められる権利であるから、その性質上、取得時効の対象にならない。

知的財産権のうち、著作権については、取得時効成立の余地がある(最判平9.7.17)。これに対して、特許権など、登録によって発生する権利については時効取得することができないと考えられる。

理解度チェック

正誤問題

次の各文を読んで、その内容が正しければ〇、間違っていれば✕と答えなさい。

(1) 取得時効の時効期間は、占有者が占有開始時に善意無過失であるときは10年である。

(2) 短期取得時効は、事実行為による占有取得の場合には適用されない。

(3) 取得時効は権利の取得原因であるので、自己の物についての取得時効は認められない。

(4) 土地賃借権は、債権であるから、時効によって取得することはできない。

ヒント

(1) 162条。

(2) 事実行為による占有取得にも適用がある(大判大8.10.13)。

(3) 自己の物についての取得時効を認めるのが、判例・通説である。

(4) 債権であっても、不動産賃借権はその性質上、継続的に行使することが可能であるので、取得時効が成立しうる。

解答

(1) 〇

(2) ✕

(3) ✕

(4) ✕

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