このページの最終更新日 2019年3月15日
裁判上の請求等、147条所定の手続きがなされた場合、まずはその手続きが終了するまでの間、時効の完成が猶予される(同条1項)。
そして、手続きの結果、確定判決等により権利が確定したときは、手続きが終了した時点で時効が更新される(同条2項)。
権利が確定しないまま手続きが終了したとき*は、時効は更新しないが、手続終了時から6か月が経過するまでの間、引き続き時効の完成が猶予される(同条1項)。
*裁判所により訴えが却下され、または、原告自ら訴えを取り下げたときなど。
1個の債権の一部についてのみ判決を求める(一部請求である)旨の訴えが提起された場合、中断(新法では時効の完成猶予・更新)の効力はその債権のどの範囲にまで及ぶかという問題があります。
判例は、①一部請求である旨を明示して訴えを提起した場合には、訴訟物となるのは債権の一部であって全部ではないから、訴え提起による消滅時効中断の効力はその一部についてのみ生じ、残部には及ばないとします(最判昭和34.2.20)。
その一方で、②一部請求の趣旨が明示されていない場合は、債権全部について時効中断の効力が生じるとします(最判昭和45.7.24)。
強制執行等の手続きがなされた場合、その手続きが終了するまで時効の完成が猶予される。
そして、その手続きが終了した時点で時効が更新されて、新たな時効期間の進行が開始する。
ただし、強制執行等の手続きが申立ての取下げまたは法律の規定に従わないことによる取消しによって終了した場合には、その終了の時から6か月を経過するまで完成猶予期間が延長される。(以上、148条)
催告の効果は、催告があった時から6か月を経過するまでの間は時効が完成しないことです(150条1項)。
催告によって時効が完成が猶予されている間にされた再度の催告は効力を有しません(同条2項)。
催告によって時効完成が猶予されている間に協議を行う旨の合意がされた場合も同様です(151条3項前段)。
協議を行う旨の合意によって時効の完成が猶予される期間は、151条1項各号に規定されている。(合意があった時から1年間など)
民法147条から152条までの規定による時効の完成猶予・更新は、時効の完成猶予または更新の事由が生じた当事者および承継人の間においてのみ効力を有します(153条)。
(1) 「当事者」は、当該の完成猶予事由または更新事由に関係する者のことを指しており、時効にかかる権利のすべての当事者を意味しているわけではありません。
連帯債務者ABのうちAだけが債権者Cに対して債権の承認をした場合、債権の消滅時効の更新の効果はAC間にだけ生じ、Bには及ばない(大判大正3.10.19)。
ABが共有する土地をCが自主占有している場合に、AだけがCに対して裁判上の請求を行ったときは、取得時効の完成猶予および更新の効果はAの持分についてだけ生じ、Bの持分には及ばない(大判大正8.5.31)。
債権者Aが債務者Bに対して有する債権にもとづいて詐害行為取消しの訴えを受益者Cに対して提起して勝訴したしても、Bに対する裁判上の請求ではないので、時効の完成猶予・更新の効果は生じない(最判昭和37.10.12)。
(2) 「承継人」には、包括承継人(相続人など)だけでなく、特定承継人(時効にかかる権利の譲受人)も含まれます。
例外的に、当事者(とその承継人)以外の者に対しても完成猶予・更新の効力が及ぶ場合があります。
① 保証関係
主たる債務者について時効の完成猶予・更新事由が生じた場合、その効力は保証人に対しても及びます(457条1項)。物上保証人に関しても同様です(最判平7.3.10)。
② 地役権
地役権に関する284条2項・292条。
③ 強制執行等および仮差押え等
強制執行等による時効の完成猶予・更新は、強制執行等の当事者(強制執行等の申立てをした者とその相手方)およびその承継人の間においてのみ効力を生じます(153条1項、ただし155条)。
仮差押え等による時効の完成猶予は、仮差押え等の当事者(申立人とその相手方)およびその承継人の間においてのみ効力を生じます(153条2項、ただし155条)。
155条は、強制執行等(148条)・仮差押え等(149条)の手続きは、時効の利益を受ける者に対してしないときは、その者に通知をした後でなければ、時効の完成猶予または更新の効力を生じないと規定します。
これは、物上保証人など債務者以外の者に対して強制執行等・仮差押え等の事由があるときは、その当事者ではない債務者にも、通知を要件として、被担保債権についての時効の完成猶予・更新の効力が及ぶことを意味します。
時効の完成猶予・更新の効果は相対的にしか生じないのが原則です(153条)。
したがって、たとえば物上保証人に対して抵当権の実行があったとしても、債務者に対しては時効の完成猶予・更新の効力は及ばないことになります。
しかしそれでは、抵当権の実行が債務者に対してなされた場合との均衡を欠くことになります。
そこで、新民法155条は、強制執行等または仮差押え等は、「時効の利益を受ける者に対してしないときは、その者に通知をした後でなければ、(略)時効の完成猶予又は更新の効力を生じない」と規定しています。
同条の趣旨は、①153条の例外として、物上保証人など債務者以外の者に対して148条(強制執行等)・149条(仮差押え等)の事由があるときは、その当事者ではない債務者にも被担保債権についての時効の完成猶予・更新の効力が及ぶこと、および、②債務者が不測の損害をこうむることがないように債務者に対する通知(競売開始決定正本の送達など)を要件とすることであると解されています。