本来、法は権利関係を実現させる方向に働くものだが、時効は逆に事実状態を正当な権利関係にまで高める。そこで、なぜ時効という制度が存在するのかが問題となる。
時効制度が存在する理由として、ふつう次の三つが挙げられる。
① 法律関係の安定(社会秩序の維持)
長期間継続した事実状態の上にはさまざまな法律関係が築かれているので、それがくつがえされると社会生活が混乱する。社会秩序を維持するためには、永続した事実状態を法律上も尊重して正当な権利関係として認めるべきである。
② 証明困難の救済
長期間継続した事実状態は真実の権利関係と合致している可能性が高いが、その反面、証拠の散逸によって権利関係を証明することが困難であることも多い。
そこで、権利関係を証明することができない者(真の権利者や既弁済者)を救済するために、時効による権利の取得・消滅を認める必要がある。
③ 権利の上に眠る者は保護に値しない
権利の行使を長期間にわたり怠った者は、法の保護を受けられなくすべきである。