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消滅時効の対象となる権利

このページの最終更新日 2020年12月27日

1 消滅時効の対象となる権利

消滅時効にかかる権利

消滅時効にかかる権利は、①債権(166条1項)と、②債権または所有権以外の財産権(同条2項)である。

後者の例として、用益物権(地上権・永小作権・地役権)がある。

消滅時効にかからない権利

(1) 所有権

所有権は、消滅時効にかからない(166条2項参照)。これは、所有権絶対の原則のあらわれである。

もっとも、他人が所有権を時効取得すると原所有者の所有権が消滅するが、これは取得時効の反射的効果であって、所有権が消滅時効にかかったことによるものではない。

(2) 物権から派生する権利

所有権が消滅時効にかからないことの帰結として、所有権にもとづく物権的請求権や、所有権にもとづく登記請求権、共有物分割請求権(256条)、相隣権(209条以下)といった所有権から派生する権利も消滅時効にかからないと解されている*。

制限物権にもとづく物権的請求権についても、本体である物権とは独立に消滅時効にかかることはない。

*登記請求権について大判大5.6.23、物権的請求権について大判大11.8.21。

(3) 担保物権(先取特権・質権・抵当権)

担保物権は、債権を担保するための権利であるから、被担保債権とは独立に消滅時効にかかることはない(被担保債権の時効消滅によって抵当権も当然に消滅する、つまり援用は不要である)。

例外として、抵当権については、債務者でも抵当権設定者でもない者(抵当不動産の第三取得者や後順位抵当権者)との関係において、被担保債権とは独立に20年の消滅時効にかかる(396条の反対解釈、大判昭15.11.26)。

(4) 占有権・留置権

占有権と留置権は、占有という事実状態にもとづいて認められる権利であって、占有の喪失によって消滅する(203条本文、302条本文)。よって、消滅時効にかからない。

2 形成権の消滅時効

形成権は消滅時効にかかるか

形成権が消滅時効にかかるか否かについては議論がある。

形成権については、権利者の一方的な意思表示によってその権利内容を実現することができるので、消滅時効を論じる余地がないように思われる。しかし、判例は形成権の消滅時効を肯定し、時効期間の定めがないものの期間については債権に準じるとしている*。

学説は、形成権の期間制限について除斥期間と考える。

*無断転貸を理由とする賃貸借契約の解除権についての最判昭62.10.8など。

論点

二段階権利行使の期間制限

たとえば、取消権(形成権)を行使すると不当利得返還請求権が発生する(703条・704条)。このような形成権とその行使の結果生じる請求権への期間制限の適用のしかたが問題となる。

① 二段階構成説

この説は、形成権とその行使の結果生じる請求権とがそれぞれ別々の期間制限に服すると考える。つまり、形成権がその制限期間内に行使されると、請求権はその発生(形成権行使)の時から別個の期間制限にかかると解する。

判例は、契約解除による原状回復請求権(545条)について、その発生時(解除の時)から一般の消滅時効(10年の時効)にかかるとする(大判大7.4.13)。これは、解除権とその行使により生じる原状回復請求権とがそれぞれ別々の期間制限に服することを前提とする。

② 一段階構成説

この説は、形成権の期間制限は、その期間内に形成権を行使し、かつその結果発生する請求権も行使しなければならないという趣旨であると解する。

形成権はそれ自体に意味がある権利ではなく、それに続く請求権を発生させるための手段にすぎないから、請求権とは別に形成権をそれ単独で独立の期間制限に服させる必要はないと考える。

論点

抗弁権の永久性

たとえば、買主が詐欺を理由に売買契約を取り消すこと(96条1項)ができる場合であっても、買主が代金を未払いであるときは、売主からの代金支払請求がないかぎり契約を積極的に取り消す動機に乏しく、そのまま放置することもありうる。

その状態のままで取消権の行使期間(126条)を経過した場合、その後に売主が代金支払いを請求してきても、買主はもはや売買契約を取り消すことができず、代金を支払わなければならなくなる。

そこで、売主の請求に対して買主がその履行を拒絶するために防御方法(抗弁)として取消権を主張する場合には、取消権は期間制限に服さず、いつでも主張することができるとする考え方が提唱されている。

このように、権利が現状維持的に抗弁として主張される場合には期間制限に服さない(永久に主張できる)とする考え方を抗弁権の永久性と呼ぶ。抗弁権の永久性を認めるべきか否かについては議論がある。

理解度チェック

正誤問題

次の各文を読んで、その内容が正しいときは〇、間違っているときは✕と答えなさい。

(1) 地上権は、20年の消滅時効にかかる。

(2) 所有権は消滅時効にかからないが、所有権に基づく物権的請求権は消滅時効にかかる。

(3) 形成権は、取消権のような期間制限の定めのないものであっても、消滅時効にかかる。

ヒント

(1) 166条2項。

(2) 所有権に基づく物権的請求権は、消滅時効にかからない(大判大11.8.21)。

(3) 判例によれば、形成権は、消滅時効に関して債権に準じて扱われる。

解答

(1) 〇

(2) ✕

(3) 〇

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