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消滅時効の起算点

このページの最終更新日 2020年12月26日

1 消滅時効期間の起算点

起算点はいつか

消滅時効の要件は、権利不行使の状態が一定期間継続することである。そこで、時効期間の起算点がいつかが問題となる。

消滅時効の起算点は、債権と債権・所有権以外の財産権とで異なる。

債権の消滅時効の起算点は、時効期間に応じて異なり、①5年の場合は「債権者が権利を行使することができることを知った時」(主観的起算点)、②10年の場合は「権利を行使することができる時」(客観的起算点)である(166条1項)。

また、債権・所有権以外の財産権の消滅時効の起算点は、「権利を行使することができる時」である(同条2項)。

5年の消滅時効の進行開始の要件

5年の消滅時効(主観的起算点からの消滅時効)の進行が開始する要件は、①債権者が権利を行使することができることを知ったこと、および、②権利を行使することができることの双方を満たすことである。

「債権者が権利を行使することができることを知った」とは、権利行使を期待されてもやむをえない程度の認識であって、具体的には、権利の発生原因と権利行使の相手方である債務者を認識することである。

また、「権利を行使することができる」こと(客観的な権利行使の可能性)が要求されるのは、権利が行使することができない状態で消滅時効が進行するのは適当でないからである。

「権利を行使することができる」の意味

「権利を行使することができる」とは、権利の行使につき法律上の障害がないことを意味する*⁑。

たとえば、履行期限の未到来は法律上の障害であるから履行期が到来するまでは消滅時効の進行は開始しないが、権利者の病気・不在、権利の存在の不知などは法律上の障害ではなく事実上の障害であるので時効の進行を妨げない。

*判例は、さらに権利の性質上、権利行使が現実に期待のできるものであることをも必要としている(最大判昭45.7.15)。

⁑法律上の障害であっても、同時履行の抗弁権(533条)のように債権者の意思により除くことができるものは時効の進行を妨げない。

2 起算点が問題となる債権

始期付き債権・停止条件付き債権

期限(始期)や停止条件が付いている債権は、それぞれ期限到来の時・条件成就の時に法律上の障害がなくなるので、その時が「権利を行使することができる時」となる。

不確定期限付きや停止条件付きの債権の場合、期限が到来し、または、条件が成就した後に債権者がその事実を知った時が主観的起算点となる。

これに対して、確定期限付き債権の場合は、債権者はあらかじめ期限が到来する時期を知っているので、期限が到来した時から消滅時効が進行する。

なお、始期付権利・停止条件付権利の目的物を第三者が占有する場合、第三者のための取得時効は、消滅時効とは無関係に、占有開始の時点から進行する。そのため、始期付権利・停止条件付権利の権利者は、取得時効の完成を阻止する(更新する)ために、いつでも占有者に対して権利の承認を求めることができる(166条3項)。

期限の定めのない債権

期限の定めのない債権は、いつでも債務者に履行を請求することができるのであるから、原則として債権発生の時点が「権利を行使することができる時」となる。

契約にもとづいて発生する債権だけでなく、不当利得返還請求権などの法律の規定にもとづいて発生する債権についても同じである。

ただし、不法行為にもとづく損害賠償請求権と相続回復請求権については、それぞれ特別の規定がある(724条・884条)。

同時履行の抗弁権付きの債権

売買契約における代金債権のように、債権に同時履行の抗弁権(533条)が付着している場合、債権者は自己の債務の履行を提供することによって相手方に履行を請求することができるから、抗弁権の存在は時効の進行の妨げとはならない。

したがって、履行期から消滅時効が進行する。

参考

起算点が問題となった債権(債務)の例

2017年改正前の起算点(「権利を行使することができる時」)に関する判例であることに注意。

① 債務不履行にもとづく損害賠償債務

本来の債務の内容が変更されただけでその同一性を失わないので、本来の債務の履行を請求することができる時から消滅時効が進行する(最判平10.4.24)。

② 安全配慮義務違反による損害賠償請求権

損害が発生した時が起算点になる。じん肺のように行政上の決定をまって損害の発生が認められる場合には、最終の行政上の決定を受けた時から時効が進行する(最判平6.2.22)。

③ 供託物取戻請求権

弁済供託における供託物取戻請求権は、紛争が続く間はその行使を現実に期待することができない。そのため、消滅時効の起算点は、「供託の基礎となった債務について紛争の解決などによってその不存在が確定するなど、供託者が免責の効果を受ける必要が消滅した時」となる(最大判昭45.7.15)。

④期限の利益喪失約款がある割賦払債務

割賦金弁済(割賦払)契約において、割賦金の支払いを怠ったときに債務者は債権者の請求により直ちに残債務全額を弁済すべき旨の約定(期限の利益喪失約款)がなされた場合、1回の不履行があっても各割賦金債務について約定弁済期の到来ごとに順次消滅時効が進行し、債権者がとくに残債務全額の弁済を求める旨の意思表示をしたときにかぎり、その時から残債務全額について消滅時効が進行する(最判昭42.6.23)。

これに対して学説(多数説)は、1回の不履行があれば即時に残債務全額についての消滅時効が進行すると主張する。不履行後は債権者はいつでも残額の支払い請求ができ、時効の進行を妨げるものではないからである。

理解度チェック

問題

次の各文を読んで、その内容が正しいときは〇、間違っているときは✕と答えなさい。

(1) 債権は、権利を行使することができる時から5年間行使しないときに時効によって消滅する。

(2) 権利者が権利を行使することができることを知らなかったときは、消滅時効の進行が開始しない。

(3) 停止条件付き債権は、条件が成就した後において、債権者が条件成就の事実を知った時に5年の消滅時効の進行が開始する。

ヒント

(1) 5年の消滅時効の起算点は、「債権者が権利を行使することができることを知った時」である。

(2) 「権利を行使することができる時」から10年の消滅時効の進行が開始する。権利者が権利の存在を知らないことは事実上の障害であって、時効の進行の妨げとならない。

(3) 条件が成就するか否かは不確定であるから、主観的起算点からの消滅時効が進行するためには、条件が成就した後で債権者がそれを知ったことが必要である。

解答

(1) ✕

(2) ✕

(3) 〇

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