このページの最終更新日 2020年12月28日
除斥期間は、ある権利について法律が定めた存続期間である。権利を行使しないままにその期間が経過すると、その権利は法律上当然に消滅する。
除斥期間の目的は、権利関係を速やかに確定させることにある。
除斥期間は、時間の経過により権利が消滅するという点で消滅時効と類似する。しかし、次のような点で消滅時効とは異なっている。
① 消滅時効には更新があるが、除斥期間には更新がない。
② 裁判所が権利消滅の判断をするためには、消滅時効は当事者の援用が必要である(145条)が、除斥期間は援用が不要である*。
③ 起算点は、消滅時効が権利行使可能時、除斥期間が権利発生時である。
④ 消滅時効の効果は遡及する(144条)が、除斥期間の効果は遡及しない。
*当事者は利益を放棄することもできない。
条文上、個々の権利ごとに定められている行使期間が、消滅時効期間と除斥期間のいずれであるかが問題となる。
立法者は「時効によって」という文言の有無によって決まるとしたが、現在の学説は、法文の形式にとらわれずに権利の性質や規定の趣旨から実質的に判断する。
たとえば、形成権は、その性質上、一方的な意思表示によってその内容を実現することができて更新を考える余地がないので、その期間制限の性質を除斥期間であると解するのが通説である。
また、請求権を1年などの短期の行使期間にかからせる規定は権利関係の早期確定を図る趣旨であるから、その期間の性質は除斥期間であると解される(通説)。
期間制限の定め
① 形成権について期間の定めがある場合
民法126条(取消権―5年・20年)、566条3項・637条1項(解除権―1年)など。
判例は、126条の期間について法文どおりに消滅時効期間とする。一方、566条3項の期間については除斥期間とする(最判平4.10.20)。通説は、除斥期間(理由は本文参照)。
② 請求権について短期の期間の定めがある場合
民法193条(盗品・遺失物の回復請求権―2年)、195条(動物の回復請求権―1か月)、201条1項・3項(占有保持・回収の訴え―1年)、566条3項・570条・637条1項(履行追完・報酬減額・損害賠償請求権―1年)、600条・621条(損害賠償・費用償還請求権―1年)など。通説は、除斥期間(理由は本文参照)。
③ 長短二重の期間の定めがある場合
民法126条(取消権―5年・20年)、724条(損害賠償請求権―3年・20年、ともに消滅時効期間)、884条(相続回復請求権―5年・20年)、1042条(遺留分減殺請求権―1年・10年)、製造物責任法5条1項(損害賠償請求権―3年・10年)、消費者契約法7条1項(取消権―6か月・5年)など。
通説は、長期の期間を除斥期間であると解する。もし短期・長期ともに時効期間であるとした場合、短期の時効を更新すれば長期の時効も当然更新され、また、短期の時効が完成すれば長期の時効の更新を考えるまでもないので、長期の時効の意味がないからである。
判例は、884条後段の20年を消滅時効期間とする(最判昭23.11.6)。
権利者が権利を行使しない状態が永く続くと、相手方がもはや権利の行使はないという信頼を抱くようになる。そのような信頼が生じた以上、その信頼を裏切って権利を行使することは信義則に反して許されない、という考え方がある。これを権利失効(けんりしっこう)の原則と呼ぶ。
この原則を認めると、消滅時効期間や除斥期間が経過する前、あるいは、消滅時効にかからない権利(物権的請求権など)であっても、権利の行使を阻止することができるようになる。
判例は、一般論としてこの原則を認めているが(最判昭30.11.22)、実際にこの原則の適用により権利行使を阻止した例はまだない。
次の各文を読んで、その内容が正しければ〇、間違っていれば✕と答えなさい。
(1) 除斥期間には、消滅時効における更新のような制度がない。
(2) 除斥期間の起算点は、権利を行使することができる時である。
(3) 不法行為による損害賠償請求権は不法行為の時から20年間行使しないとき消滅するが、その権利行使期間の性質は除斥期間である。
ヒント
(1) 除斥期間は、権利関係の早期確定を目的としているので、更新しない。
(2) 除斥期間は、権利が発生した時を起算点とする。
(3) 旧724条の定める長期の期間について、判例はその性質を除斥期間であると解していた。2017年改正により、724条の長期の期間は消滅時効期間であることが明確になった。
(1) 〇
(2) ✕
(3) ✕