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このページの最終更新日:2019年3月12日
(1) 包括代表権の内部的制限
法人も団体としての自律権を有することから、法人内部での取り決め、具体的には定款や社員総会・株主総会の決議によって代表者の包括代表権を制限することが可能である。
たとえば、代表者がある一定の取引を行うに際して理事会の承認決議を必要とする旨の制限を付加することができる。この場合、代表者が理事会の承認を経ずに行った取引の効果は、法人には帰属しない(無権代理)。
(2) 相手方の信頼を保護するための特別規定
代表者の内部制限違反の行為が無権代理行為となる結果、民法の一般原則にしたがって、取引の相手方は善意・無過失のときにだけ、民法110条などの表見代理規定の適用によって保護されることになりそうである。しかしそれでは、相手方は法人の代表者と安心して取引を行うことができないし、ひいては、包括代理権の原則に対する信頼が損なわれることになる。
そこで、法は、特別の規定を設けて、法人が代表者の代表権に加えた制限は善意の第三者(相手方)に対抗することができないとする(一般法人法77条5項・197条、会社法349条5項・599条5項)。上述の例では、法人は、理事会の承認を要するという制限を知らなかった相手方に対して、その制限を理由に無権代理であることを主張することができない。
この特別規定による保護は、包括代表権に対しては相手方に調査義務はないという意味で、相手方の過失の有無を問わない。表見代理と比較して相手方を一層保護している。
なお、善意についての主張・立証責任は相手方にある(後出最判昭60.11.29)。
(3) 民法110条の類推適用
しかし、民法の表見代理規定を適用する余地が完全にないわけではない。一般法人法77条5項等の法人法に特有の第三者保護規定は、第三者(取引の相手方)には代表権の内部制限を調査する義務がないという趣旨であるから、そこでいう「善意」とは、代表権に制限が加えられていることを知らないことを意味する(最判昭60.11.29―平成18年改正前民法54条についての説示)。
そうすると、たとえば、相手方が理事会の承認決議を必要とするという代表権の制限の存在を知っていたが、なんらかの理由でその理事会の承認があったものと信じた場合には、一般法人法77条5項等の適用はないことになる。
判例は、そのような場合において、相手方が、代表者が理事会の承認を得て適法に法人を代表する権限を有するものと信じ、かつ、そう信じるにつき正当の理由があるときには、民法110条を類推適用し、法人は代表者の行為について責任を負うとする(前出最判昭60.11.29)。(類推適用とするのは、法人の代表と通常の代理を一応区別しているからである。)
一般法人法77条5項等の法人法に特有の第三者保護規定と、一般原則である表見代理規定とでは、保護の対象とする信頼がそれぞれ異なる。前者が保護するのは、代表者の包括代理権に対する信頼である。これに対して、後者が保護するのは、個別の行為について代理権が存在することに対する信頼である。
代表者の権限が法令によって制限されることがある。
(1) 市長村長の越権行為
たとえば、市町村長は現金を出納(授受)する権限をもたない(会計管理者の専権である。地方自治法149条・170条)。それゆえ、市町村長がその自治体の代表として第三者から金銭を借り受ける合意をしてその交付を受けたとしても、その金銭借入れ(消費貸借)の効果はその自治体には帰属しない(消費貸借契約は金銭等の交付を成立要件とする要物契約であるが(587条)、市町村長には金銭の交付を受ける権限がないからである)。したがって、市町村長の借入れ行為は、無権代理行為となる。
判例は、このような法令による代表権の制限の場合において民法110条の類推適用の可能性を認める(大判昭16.2.28、上例の事案につき最判昭34.7.14)。もっとも、代表者が権限を有しないことが法令の規定上明らかである以上、正当な理由は容易には認められない(110条の類推適用を肯定した例として最判昭39.7.7、最判昭40.12.14)。
なお、法令による代表権の制限には、一般法人法77条5項等を適用する余地がない。なぜなら、法令による制限は代表権の原始的制限であって、法人内部において包括代表権に加えられた制限ではないからである。法令の不知は保護されないということも理由にあげられることがある。
(2) 基本約款上の目的
民法34条の法人の目的による制限を代表権の制限であると解する見解がある。この見解によると、目的の範囲を逸脱した行為は無権代理行為となるから、民法110条の適用によって会社の利益と取引相手方の利益を調整することになりそうである。
しかし、通常の代理におけるのと同じように同条を適用してよいかは問題である。目的による制限は34条を根拠とする外部的制限であることを考慮すると、法令による制限に準じて正当理由の認定を厳しくするべきであると言える。また、ある種の法人においては、目的による制限が法人とその構成員の利益を保護する役割を果たすのであるが、そのような場合にまで法人に責任を負わせてよいかは疑問である。
代表権の濫用とは、表面的には代表権の範囲内の行為であるが、代表者が自己または第三者の利益を図る意図で取引をした場合を言う。この場合、代表者がした行為の効力はどうなるか。取引の相手方をどの程度保護すべきかという観点から問題となる。
(1) 相手方に過失がある場合に行為を無効とする立場
判例は、原則として法人に行為の効果が帰属するが、心裡留保に関する民法93条ただし書を類推適用して、取引の相手方が代表者の真意(濫用の意図)を知りまたは知りうべきものであったときは、行為の効力が生じないとする(最判昭38.9.5)。これは代表者の行為がその権限内に属するものであること(有権代理)を前提とする。
学説には、代表者の権限濫用の場合を無権代理として構成するものもある。この見解によれば、善意・無過失の相手方は民法110条の適用ないし類推適用によって保護されることになる。
いずれの見解によっても、過失ある相手方の保護は否定される。
(2) 相手方に過失がある場合にも行為を有効とする立場
過失のある相手方を保護する見解もある。代表権の濫用を有権代理として構成して、相手方が悪意または重過失の場合には、信義則または権利濫用禁止の原則(1条2項3項)によって、法人は相手方に対して行為の無効を主張することができるとする見解がある。
また、代表権の濫用を無権代理として構成して、善意の相手方は内部制限に関する一般法人法77条5項または会社法349条5項等の類推適用により保護されると解する見解もある。