このページの最終更新日 2015年12月31日
法律行為は、当事者がした意思表示の内容どおりの法律効果を発生させる法律要件である。たとえば、ある物を「売りたい」という意思表示と、それを「買いたい」という意思表示が合致することによって売買の合意が成立し、その合意にもとづいて代金請求権と目的物の引渡請求権が発生する。すなわち、「目的物を引き渡す代わりに代金を受け取りたい」「代金を支払う代わりに目的物を引き渡してほしい」という意思表示(合意)に対して、その内容どおりの法律効果(権利・義務)が発生する。
このように、一定の法律効果の発生を意欲する意思を表示することにより、その欲した内容どおりの効果が生じる制度が法律行為である。法律行為の特徴は、この意思表示を不可欠の要素とする点にあり、この点で他の法律要件と異なっている。
なお、ふつう「法律行為」という場合には、後述する「契約」を想定していることがほとんどである。したがって、とくに断りがないかぎり、法律行為を契約に置き換えて考えてよい。
法律行為は、当事者が自由に行うことができる。すなわち、法律行為を行うか否か、相手方を誰にするか、どのような権利・義務の内容にするか、どのような方式で行うかといったことは、当事者が自由に決定することができる事柄であって、外部からの干渉を受けないのが原則である。これを法律行為自由の原則(契約自由の原則)と呼ぶ。
個人はその自由な意思にもとづいて権利・義務の関係(法律関係)を形成することができるという思想を、私的自治の原則と呼ぶ。法律行為自由の原則とは、この私的自治の原則を、法律行為という法技術的概念を用いて言い改めたものである。
〔考察〕普通取引約款
今日の経済取引は、大量かつ頻繁になされることを特徴とする。そこでは効率的・画一的な処理が要求されるから、取引の内容も必然的に定型的なものになる。すなわち、一方当事者である企業があらかじめ作成した契約条項群を前提に、他方当事者である一般市民がそれを包括的に承認するという形で取引が行われる。このような取引における契約条項を普通取引約款、あるいは単に約款という。企業の相手方には約款に従うか拒絶するかの自由があるだけであり、個々の条項についての交渉や合意がなされているわけではなく、相手方がその存在・内容を知っているとも限らない。それにもかかわらず、約款は拘束力をもつと考えられているが、その拘束力の根拠についてさまざまな学説が提唱されている。
法律的に意味のある事実が生じると、その結果として一定の権利が発生したり消滅したりします。これを権利(私権)の変動と呼びます。
たとえば、ある物を売る・買うという合意がなされることによって、買主と売主のそれぞれに、目的物を引き渡すことを要求する権利や、代金を支払うことを要求する権利が発生します。
この権利の発生・消滅の原因である事実を法律要件と呼び、権利の発生・消滅という結果を法律効果と呼びます。
法律行為も、いくつかある法律要件の種類の一つです。
〔参考〕法律事実
法律要件を構成する要素を法律事実という。たとえば、相続の法律要件は人の死亡という一つの法律事実で構成され、また、契約という法律要件は申込みと承諾の意思表示という二つの法律事実から構成されている。法律事実は、人の死亡や時の経過といった自然的事実から、意思表示などの人の行為、内心の状態(知・不知や不注意)にいたるまでさまざまである。具体的にどのような法律事実が備わった場合にどのような内容の権利変動が生じるかについては、民法の各条文に規定されている。
法律行為と似ているが区別すべきものとして準法律行為がある。準法律行為は、なんらかの意思的要素をともなう行為であるが、法律行為とは異なり、意思内容どおりの効果ではなく、法律によって定められた効果が発生する行為である。
たとえば、売買契約において当事者の一方が相手方に対して義務の履行を催告すると契約解除権が発生する(541条)。催告は「履行の催促」という意思の表現からなる法律要件であるが、それによって発生する法律効果は「解除権」であり、法律要件と法律効果が内容的に対応していない。つまり、催告という準法律行為によって生じる効果は、その意思内容の実現ではなく、法律によってあらかじめ定められた内容であるにすぎない。
準法律行為には、意思の通知(例、催告、受領拒否)と観念の通知(例、債務承認、債権譲渡の通知)とがある。(さらに、現行民法にはないが、感情の表示も準法律行為の一種である。)
〔参考〕準法律行為の外延
意思の通知や観念の通知は意思の表現をともなう行為であるが、これに加えて、さらに、無主物先占(239条)や遺失物拾得(240条)、事務管理などの意思の表現をともなわない行為を準法律行為の外延に含めることもある。