このページの最終更新日 2015年9月25日
法律行為が成立するには、当事者の意思表示が存在することを要する*。原則として意思表示だけで成立し、その方式を問わない。
ただし、消費貸借契約(587条)のように意思表示に加えて目的物の授受が必要なもの(要物契約)や、遺言(967条)のように意思表示が一定の方式によってなされることを要件とするもの(要式行為)もある。
*意思表示が存在するといえるためには、表示行為があればよい。表示に対応する内心の意思がないときは、意思表示ないし法律行為の有効性の問題となる。
契約の成立には、当事者双方の意思表示が合致すること(合意)が必要である。
この場合、表示の意味が客観的に合致していればよく、内心の意思が合致することまでは必要とされない(契約成立に関する表示主義)。
内心の意思が合致することまで要求してしまうと(契約成立に関する意思主義)、表示に対応する意思が存在しないときにはおよそ契約が成立しないので、意思表示に関する規定(93条~95条)を適用する場面がなくなってしまう*。
*内心の意思の合致を要求した判例があるが(大判昭19.6.28)、この理由から支持されていない。
法律行為の内容を確定する作業を法律行為の解釈という。
法律行為の当事者間に紛争が生じた場合には、法律行為自由の原則の下、当事者間で取り決めた内容がその解決の拠りどころとなる。
しかし、当事者間で定めた内容は法律の条文のように厳密であったり網羅的であったりするわけではないので、あいまいな表現の意味を明確にしたり欠けている部分を補ったりして内容を確定する作業が必要になる。
法律行為の解釈は、当事者がその法律行為によって達しようとした経済的・社会的目的に適合するようになされるべきである。法律行為の解釈にあたっては、まず第一に①当事者の企図する目的が基準となり、続けて、②慣習、③任意規定、④条理・信義則がこの順序で基準となる。
(1) 慣習
当事者の意図が不明である場合、法律行為の行われた場所や当事者の属する職業・業種に慣習が存在するときは、法律の規定に先立ってまず慣習が適用される。民法92条は、「法律行為の当事者がその慣習による意思を有している」ときに限定しているが、とくに当事者が反対の意思表示をしないかぎり、慣習にしたがう意思があるものと推定される(大判大3.10.27―補充的解釈、大判大10.6.2―狭義の契約解釈)。(このように解さなければ、92条は91条と内容的に重複してしまう。)
民法92条と法の適用に関する通則法3条との関係
民法92条は慣習が任意規定に優先する旨を規定しているが、法の適用に関する通則法(法適用法)3条(旧法例2条)は、「慣習は、法令の規定により認められたもの又は法令に規定されていない事項に関するものに限り、法律と同一の効力を有する」と規定しており、慣習が法令の規定に劣後すると定めているように解される。かつての通説は、この矛盾を説明するために、法適用法3条の「慣習」と民法92条の「慣習」とは異なる概念であるとして、それぞれ慣習法、事実たる慣習と呼んだ。しかし、この考え方は現在では支持されていない。両規定の関係をどのように考えるべきかという問題は、法例から法適用法への全面改正後も解釈に委ねられたままである。
(2) 任意規定
「公の秩序に関しない規定」を任意規定と言う。任意規定は当事者の合理的な意思を推測して置かれているものであり、したがって、任意規定と異なる当事者の意思表示(特約)が存在する場合にはそれが優先する(91条)。また、任意規定と異なる慣習が存在する場合にも慣習が優先して適用される(92条)。このように、任意規定は、当事者の意思や慣習が不明確・不存在である場合に補充的に適用される。
解釈規定と補充規定
任意規定には、表示の意味が不明確である場合にその意味を確定するための規定と、当事者意思を補充するための規定とがあり、それぞれ解釈規定、補充規定と呼ぶ。民法420条3項、557条などが解釈規定の例であり、573条、574条などが補充規定の例である。任意規定のほとんどは補充規定である。
(3) 条理・信義則
条理ないし信義則も、法律行為の解釈の基準とされる。当事者の合理的意思を導いたり、契約内容を妥当な内容に修正したりする際の根拠として援用される。
契約の解釈に関する基本的な態度として、意思主義と表示主義とがある。前者は当事者の内心の意思を探求するものであるのに対して、後者は表示の客観的意味を探求するものである。後者によっても、当事者が表示に対して与えた共通の意味を探求すべきであるとされているから、実質的にみて両態度の違いはそれほど大きくはない。
契約の解釈は、当事者が定めている事項についてだけではなく、当事者が定めていない事項についても行われる。当事者が定めている事項について不明確であることが問題となるときは、これを明確にする作業が必要である((1))。また、当事者が定めていない事項について問題となるときは、契約内容を補う作業が必要となる((2))。そして、当事者が定めている事項であっても、妥当な紛争解決を図るために契約内容を修正してしまうことも解釈の名のもとに行われることがある((3))。以下、順次説明する。
(1) 狭義の契約の解釈
当事者がした表示行為(言語・動作)の意味を明らかにする作業が狭義の契約の解釈である。まず当事者が意図した共通の意味(主観的意味)を探求し、それがない場合に表示の客観的意味を探求することになる。
事例研究
レストランAで顧客Bが「パスタ」を注文したのに対して、Aの店員がマカロニを出したという事例について考えてみる。この場合において、Bもマカロニの意味で「パスタ」を注文(意思表示)したのであれば、主観的意味・客観的意味両面での意思表示の合致があるといえるので契約が成立することに問題はない。
しかし、もしBがスパゲティの意味で「パスタ」と表示していたときはどうなるか。意思表示を客観的に解釈すれば、「パスタ」という表示の合致がある以上、契約は成立する(契約の成立に関する表示主義)。あとは、「パスタ」という表示の意味の確定(スパゲティかマカロニか)と、AまたはBいずれかの錯誤(95条)の問題となる。
もしBが「パスタ」という表示にマカロニの意味を与えていたときは、AとBが共通の意味を付与しているので、(社会一般にはスパゲティの意味で理解されているとしても、)「パスタ」の意味はマカロニで確定する。しかし、Bがスパゲティの意味を与えていたときは、当事者の共通の意味が確定できないので、「パスタ」の意味は社会一般と同じスパゲティで確定することになる。それでは、もしBがラザニアの意味を与えていたときはどうなるか。客観的解釈をすれぱスパゲティで意味が確定するが、両当事者が意図しない意味で契約内容を確定させることは適当でないという見解もある。
(2) 補充的解釈
当事者が表示しない事項が問題となった場合において、契約の内容を補充する作業が補充的解釈である。補充的解釈の基準として、慣習や任意規定、信義則が挙げられることが多い。しかし、近時の学説は、これらの基準に先立って、当事者であればどのような内容の合意をしたであろうかをまず探求すべきであると主張する。判例にも、黙示の意思表示(合意)を認定する方法によって同様の解釈をするものがある(最判昭30.10.4、最判平11.3.11)。
(3) 修正的解釈
契約の内容が明確であったとしても、それをそのまま紛争解決の基準として用いることが適当でない場合がある。そのような場合において妥当な結論を導くために、解釈の名のもとに契約の内容が修正されることがある。これを修正的解釈と呼ぶ。修正的解釈は、契約内容の一部無効と無効となった部分の補充的解釈との二段階の作業からなる。契約内容の一部無効については、公序良俗違反(90条)や信義則違反などが理由とされる。
例文解釈
市販の契約書に記載された条項が一方当事者のみに有利である場合に、その条項は単なる「例文」にすぎないとしてその効力を否定する解釈技術を例文解釈と言う。借地契約・借家契約をめぐる紛争について多くの裁判例がある。例文解釈は、契約条項につき当事者の合意の存在そのものを否定するものであるから厳密には解釈とは言えないが、実質的には契約条項の修正である。