ある物の経済的効用を助けるために他の物がそれに付属させられているとき、前者を主物といい、後者を従物という(87条1項)。
たとえば、家屋を日常的に使用するために畳を敷いて建具(障子・ふすまなど)を取り付けた場合、家屋と畳建具は主物と従物の関係になる。
民法87条2項は、「従物は、主物の処分に従う」と規定する。従物と主物は互いに独立した物であるが、この規定により法律的運命をともにすることになる。
たとえば、家屋(主物)を譲渡した場合には、その畳建具(従物)も家屋と一緒に譲渡される。
従物の扱いは当事者が取引に際して取り決めておくのがふつうだが、そのような取り決めがなされていない場合にこの規定が適用される(任意規定)*。
* このように、87条2項を当事者の通常の意思の推測にもとづく規定であると解するのが通説である。これに対して、同規定の実質的根拠を当事者の意思を離れた社会経済上の必要性に求める説もある。
なお、87条2項と似たような規定として370条がある。抵当権の効力が従物に及ぶ法的根拠をどちらの条文に求めるかが問題になる。
従たる権利
物ではなく権利であっても、従物に準じた扱いをするのが適当なものもある。たとえば、借地上の建物の譲渡は借地権の譲渡をともなう(最判昭47.3.9)。また、借地上の建物に設定された抵当権の効力は敷地の賃借権に及ぶ(最判昭40.5.4)。
ある物が従物であるための要件は次のとおりである(87条2項参照)。
① 主物から独立した物であること*
② 主物の常用に供されること(主物の経済的効用を継続的に助けること)
③ 主物に付属していること(主物と場所的に近接していること)⁑
④ 主物の所有者の所有に属すること⁂
* 独立の物かどうかは、単にその物が取り外し可能かどうかだけでなく、その効用も考え合わせて判断する必要がある(大判昭5.12.18)。
建具の独立性
建物に備え付けられた畳や障子のように、取り外しが自由であるものは独立した物であるといえる。しかし、取り外し可能な建具であっても、雨戸や入口の扉のように建物の内外を遮断する効用を果たすものは、壁と同じように建物の一部を構成し、独立の物ではない(前掲大判昭5.12.18)。
⁑ 従物は、主物と物理的に接着している必要はなく、主物の効用を助けることができる場所にあればよい。たとえば、ガソリンスタンドにある地下タンクなどの諸設備は店舗用建物の従物である(最判平2.4.19)。
⁂ 87条1項の法文や当事者意思の推測という趣旨に忠実な解釈である。判例も、主物・従物ともに同一の所有者に帰属することが必要であるとする(大判昭10.2.20)。これに対して、従物が他人の所有物の場合にも本条の適用を認める見解も有力である(従物に関しては他人物売買となる)。
次の各文を読んで、その内容が正しければ○、間違っていれば✕と答えなさい。
(1) ある物を従物とすることの意味は、主物の処分に従わせることにある。
(2) 主物と従物とは一体の物として扱われるので、主物だけを処分することはできない。
(3) 母屋を譲渡した場合、同じ敷地内にある物置もそれに伴って譲渡される。
ヒント
(1) 87条2項。
(2) 87条2項は、当事者が反対の意思を表示した場合には適用されない(通説)。主物と従物とは互いに独立の物であるので、主物か従物のどちらか一方だけを処分することも可能である。
(3) 物置は、従物の三つの要件(独立性、常用に供する目的、付属性)を満たす。母屋と物置は主物と従物の関係にあるので、物置は母屋の処分(所有権移転)に従う。
正解
(1) 〇
(2) ✕
(3) 〇