更新日:2018年11月12日
物権とは何か、どのような権利であるかについて、債権と比較しながら説明します。
また、物権にはどのような種類があってどのように分類されるか、そして、物権法定主義という考え方についても見ていきます。
物権は、物を直接に支配する権利であると定義されます。
物権は、債権とならぶ主な財産権の一つです。物権がどのような性質を持つ権利であるかを、債権との違いという視点から説明します。
(1) 直接支配性
物権は、物を直接に支配して利益を得ることをその内容とします。
この点において物権は、他人になんらかの行為を請求する権利である債権とは本質的に異なります。債権は、他人(債務者)の行為を介してはじめて権利の内容が実現します。
(2) 絶対性
物権を有する者は、すべての人に対してその権利を主張することができます。これを物権の絶対性と呼びます。
たとえば、ある土地の所有者は、その土地の使用を妨害する者があればそれが誰であろうと、その者に対して妨害を除去するように求めることができます(物権的請求権)。
これに対して債権は、特定の人(債務者)に対してだけその権利内容を主張することができ、第三者に対して主張することはできません。これを債権の相対性と呼びます。
かつて、物権と債権がそれぞれ絶対権と相対権であることを根拠に、物権には第三者がそれを侵害しない義務を負うという意味での不可侵性があるが、債権にはそのような不可侵性がないと考えられていました。この考え方によれば、債務者以外の第三者が債権を侵害することはありえません。
しかし現在では、物権であれ債権であれ、およそ権利と呼ばれるものには不可侵性があるという考え方が支持されており、第三者による債権侵害に対しても不法行為責任の成立を認めるのが判例(大判大4.3.10)・通説の立場です。
(3) 排他性
物権は物の直接支配を本質的内容とするので、同じ物の上に同じ内容の物権を重ねて成立させることはできません。これを物権の排他性と呼びます。
たとえば、すでに誰かが所有権を持つ物の上に、さらに別人の所有権が成立することはありません。
これに対して債権の場合には、両立しえない内容の権利が同時に存在することも認められます。つまり、債権には排他性がありません。
もっとも、物権であっても互いに種類・内容が異なっていれば、同一物上に並存しうる場合があります。たとえば、他人が所有権を有する物の上に制限物権(後述)を成立させることは可能です。また、同一不動産上に複数の抵当権が成立することも認められます(各々の抵当権は順位が違うので同一内容ではない)。
物権は、このように排他性をそなえた権利であるから、その変動(発生・変更・消滅)は第三者に対して大きな影響を与えます。
それゆえ、誰がどのような物権を有しているかを外部から知ることができるようにすること(公示)が要請されます。
債権が排他性をもたないという原則には法律による例外があります。
不動産賃借権は債権の一種ですが、一定の要件をみたした場合は排他性(対抗力)を有するようになります(民法605条、借地借家10条・31条など)。
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物権の客体は、「物」です。「物」は、有体物にかぎられます(85条)。
もっとも、物権の種類によっては、権利を客体とするものもあります(権利質など)。
物権には、民法その他の法律によってさまざまな種類があります。
そのうち民法に定められているのは、占有権、所有権、地上権、地役権、永小作権、入会権、留置権、先取特権、質権、抵当権の10種類です。
民法上の物権以外にも、特別法上の物権(例、商事留置権、各種の動産抵当権、各種の財団抵当権、立木抵当権、仮登記担保権)や慣習法上の物権(後述)があります。
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民法が定める10種類の物権を分類します。
(1) 所有権と制限物権(他物権)
所有権は、物を全面的に支配する権利であり、物権の中心となる権利です。
所有権に対して、物の価値を部分的に支配する物権があります。
地上権・地役権・永小作権・入会権の四つは、物(土地)を一定の目的のために利用することを内容とする物権であり、これらを用益物権と呼びます。用益物権は、土地以外の物の上には成立しません。
また、留置権・先取特権・質権・抵当権の四つは、債権を担保するための物権であり、これらを担保物権と呼びます。
そして、用益物権と担保物権は、ともに他人が所有する物の上に成立してその所有権の内容を制限する物権であることから、これらをまとめて制限物権あるいは他物権と呼びます。
(2) 占有権と本権
物権のなかでも、占有権はその他の物権とは毛色が違っています。
占有権は、物を支配しているという事実状態(占有)を法が権利として保護するものです。占有を正当とする理由があるかどうかにかかわりなく、物の事実的支配にもとづいて認められる権利です。
これに対して、占有権以外の物権は、物に対する支配を正当づける権利であって、占有権と対比して本権としての物権といいます。
物権は、法律で定められたもの以外に当事者が自由に創設することは認められていません(175条)。これを物権法定主義といいます。新しい種類の物権をつくることだけでなく、法律で定められた内容を変更することも許されません。
債権については、契約自由の原則にもとづいて、契約当事者が自由にその内容を決定することができるとされていることと対照的です。
物権についてこのような立法主義が採用された理由としては、一般に次の二つが挙げられます。
① 土地に関する複雑な封建的支配関係を整理して所有権の自由を確立する。
② 取引の安全と迅速化を図るために、物権の種類と内容を法定し、公示が容易なものだけに限定する。
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民法が物権法定主義を採用しても、昔からの慣習にもとづく権利が民法の施行後も残っていたり、民法施行後に取引慣行のなかから新たな権利が発生したりします。これらの権利に物権としての効力を認めるべきかどうかが問題となります。
物権法定主義の考え方からすると法律に定められていない権利を物権として認めることはできないことになりますが、そのように厳格に解することが実際上妥当でない場合も存在します。
そこで、判例および学説は、法律に定められていない慣習にもとづく権利についても物権性を肯定できる場合があることを認めています(いわゆる慣習法上の物権)。もっとも、その法的根拠については定説がありません。
慣習法上の物権として認められたものとしては、水利権(流水使用権)と温泉権(温泉専用権または湯口権ともいう。大判昭和15.9.18)があります。
慣習法上の物権として認められなかったものとして、上土権(大判大正6.2.10)などがあります。
次の文章の( )に当てはまる語を答えなさい。
民法典に規定された物権は、( ① )、所有権、地上権、地役権、永小作権、( ② )、留置権、( ③ )、質権、抵当権の10種類である。そのうちの地上権・地役権・永小作権・( ② )の四つは他人の土地の使用収益を目的とする物権であり、( ④ )と呼ばれている。また、留置権・( ③ )・質権・抵当権は債権担保のために目的物の交換価値を支配することを目的とする物権であって、これらを( ⑤ )と呼ぶ。( ④ )と( ⑤ )とは、他人の所有物の上に成立してその所有権を制約する物権であることから、あわせて( ⑥ )と総称する。
【正解】
①占有権
②入会権
③先取特権
④用益物権
⑤担保物権
⑥制限物権(他物権)