更新日 2020年12月12日
胎児(たいじ)は、まだ出生していないので、権利能力を有しないのが原則である。
しかしそうすると、出生の時期が少し早いか遅いかという偶然の事情によって権利・財産を取得できるかどうかが左右されることになる*。これは、不合理である。
そこで民法は、不法行為にもとづく損害賠償請求・相続・遺贈に関して、胎児はすでに「生まれたものとみなす」ことにした(721条・886条1項・965条)。
もっとも、胎児が死産したときには、これらの規定は適用されない(886条2項)。
*たとえば、子が親の財産を相続するためには、親の死亡=相続開始の時点ですでに権利の主体として存在していなければならない。胎児の出生が親の死亡よりも早ければ親の財産を相続することができるが、遅ければ相続することができない。
721条・886条1項(965条)の「既に生まれたものとみなす」の意味について解釈が分かれる。
① 停止条件説(人格遡及説)
胎児は、胎児である間はまだ権利能力がなく、生きて生まれたときに初めて権利発生の時点にまで遡って権利能力が認められると解する説である。
生まれる前の胎児はまだ権利の主体ではないので、胎児に代理人をつけることはできない。判例は、この考え方に立つ(大判昭7.10.6―阪神電鉄事件)。
② 解除条件説(制限人格説・人格消滅説)
胎児である間でも制限的に権利能力が認められるが、胎児が死産したときには権利能力がはじめからなかったことになると解する説である。登記実務の立場である。
生まれる前の胎児であっても権利の主体となることができるので、胎児に代理人をつけてその権利を保全することが可能となる。もっとも、現行法上、胎児のための法定代理を認める制度は存在しない。