虚偽表示

意思表示民法総則

虚偽表示の意義

虚偽表示とは

虚偽表示(きょぎひょうじ)とは、表意者が相手方と通じてした虚偽の(表示行為に対する効果意思のない)意思表示をいう。通謀虚偽表示ともいう。

心裡留保との違いは、真意でない意思表示を相手方と通謀して行っている点にある。

虚偽表示の具体例

虚偽表示の例としてよく挙げられるのが、仮装譲渡(いわゆる財産隠し)の事例である。

たとえば、Aが自己所有の不動産に対する債権者からの差押えを逃れるために、仲間のBと通じて、A所有の不動産をBに売却したように契約を偽装して、登記名義もBに移転するというような場合である。A、Bをそれぞれ仮装譲渡人、仮装譲受人という。

この場合、AB間でなされた仮装の売買契約の意思表示は、真に権利関係の変動を生じさせる意図(効果意思)がないのであるから、虚偽表示に当たる。

虚偽表示の効力

当事者間における効力

虚偽表示は、無効である(94条1項)*。

虚偽表示は、表示行為に対応する効果意思を欠き、また、当事者(表意者・相手方)間においてはその効力を認める必要がないからである。

虚偽表示は、当事者間においては常に無効となる。

*94条は、単独行為にも適用される(最判昭31.12.28―契約の解除)。

第三者との関係(94条2項)

民法94条2項は、虚偽表示による無効は「善意の第三者」に対抗することができないと定める。

真実の権利者を犠牲にして、虚偽の外観を信頼して取引に入った第三者を保護する趣旨である。

たとえば、上述の仮装譲渡の事例で、不動産の仮装譲受人Bがその不動産を第三者Cに譲渡した場合、Cが虚偽表示であることを知らなかった(善意である)ときは、仮装譲渡人AはCに対して虚偽表示による無効(したがってBは無権利者であること)を主張することができない*。

その結果、AからCへと直接に﹅﹅﹅所有権が移転したものとして扱われる(判例)⁑。

*当事者以外の者からの無効の主張であっても認められない(大判明37.12.26)。

⁑上の事例において、さらにAが所有不動産を他人Dに譲渡した場合、不動産の権利はA→CとA→Dというように二重譲渡された場合と同視することができる。したがって、CとDは対抗関係に立ち、いずれか先に登記を具備したほうが不動産の権利を取得することになる(最判昭42.10.31)。もし94条2項適用の結果としてA→B→Cと順に権利が移転したことにすると、Dより先にBが登記を経由しているので、Bから権利を承継したCは常にDに優先することになる。

民法94条2項と権利外観法理

民法94条2項は、いわゆる権利外観法理を具体化した規定であると考えられている。権利外観法理(けんりがいかんほうり)とは、権利に関する虚偽の外観を作り出した権利者は、その外観を信頼して取引に入った者に対して、外観どおりの責任を負うという考え方である。表見法理ともいう。110条なども、権利外観法理の適用例と考えられている。

94条2項によって保護される第三者

第三者の範囲

民法94条2項の「第三者」とは、虚偽表示の当事者(表意者・相手方)およびその包括承継人(相続人など)以外の者であって、虚偽表示によって生じた外観上の権利関係について法律上の利害関係を有するに至った者をいう。

判例によると、仮装譲渡によって不動産を譲り受けた者(仮装譲受人)からその不動産を取得した者は「第三者」に当たる。さらにその第三者から不動産を取得した者(転得者)もまた、94条2項の「第三者」に含まれる(最判昭45.7.24)。

また、単に債権を有する者(一般債権者)は「第三者」には当たらないが、仮装譲渡された不動産上に抵当権の設定を受けた者(抵当権者)や、虚偽表示の目的物を差し押さえた者(差押債権者)は「第三者」に当たる。

善意の意味

94条2項の「善意」とは、意思表示が虚偽表示であることを知らないことである。善意であるかどうかは、第三者が利害関係を有するにいたった時点を基準にして判断する。

条文の文言では善意しか要求されていないが、さらに虚偽表示を知らなかったことについて過失がない(無過失である)ことをも要するか。判例は、不要とする(大判昭12.8.10)。学説は、無過失を要求する説と不要とする説とに分かれる。

善意であったことを主張・立証する責任は、第三者が負う(最判昭35.2.2)。

登記の要否

不動産の仮装譲渡の事例において、不動産を購入した第三者Cが保護されるためには、登記は不要である(最判昭44.5.27)。

虚偽表示をした不動産の所有者Aは第三者Cとの関係では権利を有しない者として扱われることになり、AとCとは対抗関係に立たないからである*。

*対抗要件としての登記が要求されるのは、権利を主張する者どうしが対抗関係に立つ場合にかぎられる(177条)。

第三者からの転得者の扱い

第三者から目的物を取得した者(転得者)も、民法94条2項の「第三者」に含まれる。したがって、たとえ仮装譲受人と直接取引した第三者が虚偽表示につき悪意であったとしても、その第三者からの転得者は、善意であるかぎり、同規定により保護される(最判昭45.7.24)。

それでは逆に、直接の第三者が善意で、転得者が悪意である場合はどうなるか。次のように、二つの異なった考え方がある。

① 絶対的構成(判例)

善意の第三者が出現したときに絶対的に権利の移転が確定し、その者から権利を取得した転得者はたとえ悪意でも権利者として保護されるとする考え方である。

判例は、この考え方に立つ(大判昭6.10.24)。

② 相対的構成

個々の第三者ごとに相対的に権利保護の必要性を判断し、たとえ善意の第三者からの権利取得であっても、悪意の転得者は保護すべきではないとする考え方である。94条2項が信頼保護規定であることを理由とする。

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