婚姻の成立と要件

夫婦親族法

結婚のことを法律では婚姻と呼ぶ。婚姻を成立させるには、戸籍の届出だけで足りる。しかし、婚姻意思がない婚姻は無効であり、また、未成年者の婚姻や、重婚、再婚禁止期間内の婚姻、近親婚は禁止されている。

婚姻の成立

婚姻とは、男女が夫婦となること(結婚)をいう。

婚姻は、習俗的には婚約→挙式→同居というプロセスを経て行われる。しかし、法律的には、これらの事実が存在しても、婚姻が成立したとは認められない。

法律上の婚姻が成立するためには、戸籍上の届出をすることが必要である(739条)。逆に、婚姻の届出(婚姻届)が受理されれば、婚約や挙式などがなくても、法律上は夫婦となることができる。これを届出婚主義という。

婚姻の届出がない事実上の夫婦関係は、法的には内縁として処理される。

婚姻の要件

婚姻が有効に成立するためには、次のような要件を満たさなければならない。

  1. 当事者間に婚姻をする合意(婚姻意思の合致)があること
  2. 婚姻の妨げとなる法律上の事由(婚姻障害)が存在しないこと
    • 婚姻適齢に達していること(731条)
    • 重婚でないこと(732条)
    • 女性については再婚禁止期間を経過していること(733条)
    • 一定の範囲の近親婚でないこと(734条~736条)
  3. 婚姻の届出をすること(739条)

上記の1と2の要件を婚姻の実質的要件と呼び、3の要件を婚姻の形式的要件と呼ぶ。

婚姻意思

婚姻が有効であるためには、当事者の双方に相手方と婚姻をする意思(婚姻意思)があることが必要である。

婚姻意思の意味

婚姻意思とは、社会通念上夫婦であると認められる関係を形成する意思をいう(実質的意思説)。これは、真に夫婦となろうとする意思を意味する。

したがって、他の目的のための便法として婚姻の届出をしても、そのような婚姻は婚姻意思がないので無効である(最判昭44.10.31―子を嫡出子とするための婚姻)。

婚姻意思の存在時期

届書を作成してから届出が受理されるまでの間に婚姻意思を失った場合、婚姻の効力はどうなるか。

届出の受理までの間に一方が昏睡状態に陥って意識を喪失していた場合でも、婚姻は有効に成立する(最判昭44.4.3)。

当事者が受理時までに翻意して婚姻意思を失っていた場合、婚姻は無効となる(離婚届についての最判昭34.8.7)。もっとも、翻意は、相手方または戸籍事務管掌者に対して表示しなければならない。

当事者の死亡

届出受理時に当事者が死亡していた場合、届出は効力を生じない(大判昭16.5.20)。ただし、届出人が生存中に届書を郵送していたときは、死亡後であっても届出は受理され、届出人の死亡時に届出があったものとみなされる(戸籍法47条)。

婚姻障害

民法は、731条から736条までに婚姻の妨げとなる事由を定めている。これを婚姻障害という。

婚姻適齢(婚姻能力)

男女ともに18歳にならないと婚姻することができない(731条)。これは、成年年齢(4条)と同一である。肉体的・精神的に婚姻をするに足りる年齢であることを要求している。

18歳以上であるかぎり、成年被後見人であっても単独で婚姻することができる(738条)。

重婚の禁止

配偶者のある者は、重ねて婚姻することができない(732条)。これは、一夫一妻制を採用することを意味する(重婚は犯罪とされる。刑法184)。

配偶者は法律上のそれであり、法律婚をしている者が他人と内縁関係にあっても重婚ではない(重婚的内縁とよばれる)。

重婚は、法令違反の届出が誤って受理された場合、再婚した後に前婚の離婚が無効・取消しとなったり、前配偶者の失踪宣告が取り消されたりした場合などに発生する。

再婚禁止期間

女は、前婚の解消または取消しの日から100日を経過した後でなければ、再婚することができない(733条1項)。これを再婚禁止期間または待婚期間とよぶ。

この禁止の趣旨は、嫡出推定(772条)が重複して子の父がわからなくなることを予防することにある。

したがって、女が前婚の解消・取消しの時に懐胎してなかったり、その後に出産した場合には、再婚は禁止されない(733条2項)。前夫と再婚する場合や、夫の生死不明を理由とする離婚の場合も同様である。

近親婚の禁止

優生学的または倫理的理由によって、一定範囲の近親者どうしの婚姻は禁止される(734条~736条)。

  1. 直系血族間(例、祖父と孫、養父と養子)の婚姻および三親等内の傍系血族間(例、おじとめい)の婚姻(734条1項本文)。実方の親族関係の終了後(817条の9)も禁止される(同条2項)。
  2. 直系姻族間(例、しゅうとと嫁)の婚姻。姻族関係の終了後(728条、817条の9)も禁止される(735条)。
  3. 養子・その直系卑属・それらの配偶者と、養親・その直系尊属との間の婚姻は、離縁によって親族関係が終了した後(729条)も禁止される(736条)。

養子と養方の傍系血族との間(例、養子と養親の子)での婚姻は禁止されない(734条1項ただし書)。傍系姻族間(例、夫と亡妻の妹)での婚姻も可能である。

未成年者の婚姻

平成30年(2018年)民法改正前は、成年年齢が20歳、婚姻適齢が男18歳・女16歳であったので、未成年者の婚姻が認められていた。未成年者が婚姻するには、その父母の同意が必要であった(旧737条)。

そして、いったん婚姻をした未成年者は成年に達したとみなされ(旧753条)、それによって行為能力の制限がなくなり、親権に服することもなくなった(婚姻による成年擬制)。

同改正(2022年4月1日施行)によって、成年年齢および婚姻適齢が男女ともに18歳と定められたので、未成年者の婚姻は(経過措置を除き)認められなくなり、婚姻による成年擬制も廃止された。

婚姻の届出

婚姻は、戸籍上の届出によって成立する(739条1項参照)。戸籍への記載は要件ではない。

届出は、当事者双方および成年の証人2人以上が署名した書面または口頭によって行う(同条2項)。代理署名であっても、受理された以上は有効となる。

戸籍実務管掌者(市町村長など)は、婚姻障害の有無や届出方式の適否などを形式的に審査して、婚姻が法令の規定に違反しないことを認めた後に、その届出を受理する(740条)。

法令に違反する婚姻の届出が誤って受理された場合、届出方式に不備があるだけのときには、婚姻は有効である(742条2号)。

しかし、婚姻の実質的要件(婚姻意思の欠如、婚姻障害の存在)を欠く場合には、婚姻の無効・取消しの原因となる(次述)。

婚姻の無効と取消し

実質的要件を欠く婚姻は、その効力が否定される。効力否定の方法は無効と取消しであるが、民法総則の無効・取消しとは異なることに注意を要する。

婚姻の無効

人違いその他の事由によって当事者の双方または一方に婚姻意思がない場合、その婚姻は無効である(742条1号)。

もっとも、無効な婚姻は、当事者の追認によって届出時にまでさかのぼって有効となる(最判昭47.7.25)。

婚姻無効は、当然に無効であり(訴えを要しない)、最初から夫婦ではなかったことになる(子は嫡出子にならない)。

婚姻の取消し

婚姻は、取り消すことができる(743条)。

婚姻の取消原因となるのは、婚姻障害が存在する場合(公益的取消し、744条1項)、および、詐欺または強迫による婚姻の場合(私益的取消し、747条1項)である。

婚姻取消しの手続き

婚姻の取消しは、裁判所に対して請求することによって行う(744条1項、747条1項)。

不適齢者の婚姻や詐欺・強迫による婚姻の場合、その原因が止んだ時から3か月間は、追認しないかぎり、取り消すことができる(745条、747条)。再婚禁止期間内の婚姻は、その期間を経過し、または、女が出産した後は、取り消すことができない(746条)。重婚の後婚はその離婚後に取り消すことができない(最判昭57.9.28)。

婚姻取消しの効果

婚姻取消しの効果は、遡及しない(748条1項)。

婚姻関係はその成立から取消しまでの間は存続していたことになるので、実質的には離婚に近い。したがって、婚姻取消しには離婚に関する規定が準用される(749条)。

なお、婚姻当事者は、婚姻によって得た財産の返還義務を負う(748条2項3項)。

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