法人の代表・不法行為責任

民法総則法人

法人の代表とは

法人の活動は、現実にはその業務執行機関である自然人が担います。

法人の業務執行機関は、内部的および対外的に法人の業務を執行します。このうち対外的な業務執行を代表といい、対外的な関係で業務執行権限を有する者(機関)を法人の代表者(代表機関)*と呼びます。

* 一般社団法人の代表者は理事または代表理事であり、株式会社の代表者は取締役または代表取締役です。代表理事や代表取締役がいる場合、理事や取締役は法人を代表することができません。

法人と代表者との関係は、代表者が法人の機関として第三者との間でした行為の効果が法人に帰属するという関係にあります。このような代表の法律関係は、代理に準じて処理されます*。

* 「代表」については代理と同様に考えてよく、両者を厳密に区別する必要はありません。

代表権の制限と取引の相手方の保護

代表者の代表権は包括的であり、原則として法人の業務に関する一切の裁判上・裁判外の行為に及びます(包括代表権)。

もっとも、法人内部での取り決め(基本約款や総会決議)*によって代表権が制限されることがあります。その場合、代表者が代表権に付加された制限に違反して行った取引の効果は、無権代理行為となり、法人には帰属しません

* 法人も団体としての自律権を有することから、包括代表権を制限することが可能です。

たとえば、代表者が一定の取引を行うに際して理事会の承認決議を必要とする旨の代表権の制限が存在する場合、代表者が理事会の承認を経ずに行った取引の効果は法人には帰属しません。

このような場合に関して法は特別の規定*を設けて、法人が代表者の代表権に加えた制限は善意の第三者(相手方)に対抗することができないとしています⁑。上述の例では、法人は、理事会の承認を要するという制限を知らなかった取引の相手方に対して、その制限を理由に無権代理であることを主張することができません。

* 一般法人法77条5項・197条、会社法349条5項・599条5項。
⁑ この特別規定による保護は相手方の過失の有無を問わないので、相手方の善意・無過失を要求する表見代理と比較して相手方を一層保護しています。

民法110条の類推適用

一般法人法77条5項等が保護するのは、包括代表権に対する信頼です。そこでいう「善意」とは、代表権に制限が加えられていることを知らないことを意味します(最判昭60.11.29―平成18年改正前民法54条についての説示)*。

* 第三者(取引の相手方)の無過失が要求されないのも、第三者には代表権の内部制限を調査する義務がないという趣旨です。

そうすると、たとえば、相手方が理事会の承認決議を必要とするという代表権の制限の存在を知っていたが、なんらかの理由でその理事会の承認があったものと信じた場合には、一般法人法77条5項等の適用はないことになります。

判例は、そのような場合において、相手方が、代表者が理事会の承認を得て適法に法人を代表する権限を有するものと信じ、かつ、そう信じるにつき正当の理由があるときには、民法110条を類推適用*し、法人は代表者の行為について責任を負うとしています(最判昭60.11.29)。

* 類推適用とするのは、法人の代表と通常の代理を一応区別しているためです。

法人の不法行為責任

法人も不法行為責任(損害賠償責任)を負うことがありますが、その責任発生の態様(法的根拠)には次のようなものがあります。

  • 代表者の行為による不法行為責任(一般法人法78条等)
  • 被用者の行為による不法行為責任(民法715条*)
  • 法人が直接に負う不法行為責任(民法717条⁑、製造物責任法3条⁂)

* 使用者責任。法人にかぎらず、使用者一般に適用されます。
⁑ 土地工作物責任。土地の工作物の瑕疵について占有者・所有者が責任を負います。
⁂ 製造物の欠陥についてその製造業者である法人が直接に責任を負います。

代表者の行為による不法行為責任

一般法人法78条は、「一般社団法人は、代表理事その他の代表者がその職務を行うについて第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」と規定しています*。

* 同規定は一般財団法人について準用され(一般法人法197条)、会社に関しても同様の規定が存在します(会社法350条・600条)。

この規定は、理事・代表理事などの法人の代表者がした行為についてのみ適用されます。法人の従業員(支配人や任意代理人など)の行為については、民法715条が適用されます。

同規定の要件は、次のとおりです。

  1. 代表理事その他の「代表者」の行為であること
  2. 「職務を行うについて」第三者に損害が発生したこと
  3. 代表者の行為が不法行為の一般的要件(民法709条以下)を満たすこと
取引的不法行為と外形理論

法人が代表者の不法行為について責任を負うのは、代表者がその「職務を行うについて」第三者に損害を発生させた場合にかぎられます。

判例は、代表者の加害行為が「職務を行うについて」の範囲に含まれるかどうかを、行為者の主観的意図にかかわりなく、行為の外形からみて客観的に判断しています*。これを外形理論といいます。

* 民法715条に関する大判大15.10.13。民法715条1項の「事業の執行について」という要件は、「職務を行うについて」と同じ意味です。

判例の外形理論は、取引行為による不法行為(取引的不法行為)*を念頭に、取引相手方の保護を目的として形成されてきたものです(最判昭41.6.21など)⁑。

* 代表者がその職務権限を逸脱して取引を行うような場合です。
⁑ 取引的不法行為が問題となった事案の多くは、地方自治体の長(市町村長)の越権行為に関するものです。自治体における市町村長の代表権の制限は法令による原始的制限であって、法人内部の制限ではないため、自治体には旧54条(現在の一般法人法77条5項等)や民法110条を適用することができません。そこで、旧44条(現在の一般法人法78条等)によって自治体(法人)の不法行為責任を追及することが行われました。

判例は、代表者のした行為が、その外形上、職務行為に属するものと認められる場合であっても、相手方がその行為が職務行為に属さないことを知っていたか(悪意)、または知らないことについて重大な過失のあったときは、法人は相手方に対して責任を負わないとします(最判昭50.7.14)。

機関個人の不法行為責任

代表者個人の不法行為責任

一般法人法78条等によって法人が代表者の行為について不法行為責任を負う場合には、代表者個人も民法709条によって不法行為責任を負います(大判昭7.5.27)。

代表者と法人は連帯して責任を負い、法人は代表者に対して求償することができます*。

* 使用者責任に関する民法715条3項参照。

代表者の加害行為とその職務との関連性がない場合、代表者は個人的な不法行為責任を負いますが、法人は責任を負いません。

公務員の加害行為

民間法人の場合とは対照的に、公権力の行使について国または公共団体が責任を負う場合(国家賠償法1条)には、公務員個人は責任を負いません(最判昭30.4.19)。

この差異は、政策的な考え方の違いにもとづきます。すなわち、公務員の場合には個人的責任の追及を認めると職務の執行に消極的になるおそれがあると考えるのに対して、法人の機関の場合にはむしろ個人的責任の追及は不法行為を抑止する機能が大きいと考えられています。

役員等の第三者に対する不法行為責任

法人の役員等*がその職務を行うについて悪意または重大な過失があり、それによって第三者に損害を与えた場合、その役員等は第三者に対して損害賠償責任を負います⁑。

* 代表者以外の理事、取締役、監事、監査役、会計監査人など。
⁑ 一般法人法117条1項・197条、会社法429条1項・597条。複数人が責任を負うときは連帯責任となります(一般法人法118条、会社法430条等)。

この責任は、第三者との関係で過失があるかどうかにかかわらず認められる責任であって、民法709条の適用を排除するものではありません。

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