失踪宣告

民法総則

失踪宣告とは何か

失踪宣告しっそうせんこくは、不在者*の生死不明の状態が一定期間継続した場合に、家庭裁判所の審判によってその者を死亡したものとみなす(擬制する)制度である(30条~32条)。

* 従来の住所・居所を去った者。

生死が不明な不在者をいつまでも生存しているものとして扱うと、その者をめぐる法律関係が一向に進展せず、残された関係者にとっては不都合な事態となる。そこで民法は、不在者の死亡を擬制することによって、不在者について婚姻が解消したり相続が開始したりするようにした。

普通失踪と特別失踪

失踪には、その原因を問わない普通失踪ふつうしっそうと、なんらかの危難に遭遇したことを原因とする特別失踪とくべつしっそう*の二つの場合がある。それぞれの場合において、失踪宣告の要件および効果が異なる(後述)。

危難失踪ともいいます。

普通失踪特別失踪(危難失踪)
失踪期間生死不明の状態が7年間継続危難が去った後1年間生死不明
死亡擬制時失踪期間満了時危難が去った時

失踪宣告の要件

家庭裁判所は、不在者の生死不明の状態が一定期間継続した場合に、利害関係人の請求にもとづいて、公告の手続きを経た後に失踪の宣告の審判をする(30条、家事事件手続法148条)。

失踪期間

失踪宣告の要件として、ふつうの場合(普通失踪)は不在者の生死不明の状態が7年間継続することが必要である(30条1項)。

しかし、戦地に臨んだり、沈没した船舶に乗っていたりした場合のように、死亡する確率が非常に高い危難に遭遇した場合(特別失踪)には、生死不明の期間は危難が去った時から1年で足りる(同条2項)。死亡の可能性が高いので、期間が短く設定されている(後述するように死亡擬制時も異なる)。

利害関係人の請求

家庭裁判所の失踪宣告は、利害関係人からの請求を待ってなされる(30条1項)。

利害関係人とは、失踪宣告を求めるにつき法律上の利害関係を有する者をいう(大決昭7.7.26)。不在者の配偶者や推定相続人、生命保険金の受取人などがこれに当たる。

なお、近親者への配慮から、検察官は請求権者に含まれていない。

失踪宣告の効果

失踪宣告を受けた者(失踪者)は、死亡したものとみなされる(死亡擬制)。その結果、婚姻の解消や相続の開始、保険金請求権の発生などといった死亡にともなう効果が発生する。

死亡が擬制される時点は、普通失踪の場合は失踪期間満了時(生死不明の状態が7年経過した時点)、特別失踪の場合は危難が去った時(失踪期間起算時)になる(31条)。

失踪者が生存していた場合

失踪宣告は、従来の住所・居所を中心とする法律関係に関して死亡を擬制するものにすぎない。

したがって、もし失踪者がどこかで生存していたとしても、失踪宣告によって失踪者本人の権利能力が消滅するわけではなく、失踪者が新たに別の住所で形成した法律関係は失踪宣告による影響を受けない。

ただし、失踪者が元の住所・居所に戻ってきたとしても、失踪宣告の効力は当然には消滅しない。元の住所・居所を中心とする法律関係を復元するためには、失踪宣告の取消しが必要となる(後述)。

失踪宣告の取消し

失踪者が生存していること、または、擬制された死亡時期と実際の死亡時期が異なることが判明したときは、失踪者本人または利害関係人は、家庭裁判所に対して失踪宣告の取消しを請求することができる(32条1項前段、家事事件手続法149条)。

失踪宣告の取消しの効果

失踪宣告の取消しがなされると、失踪宣告による効果(失踪者の死亡を原因とする権利変動)は、当初にさかのぼって生じなかったことになる(遡及効そきゅうこう

もっとも、失踪宣告後その取消し前に「善意でした行為」には取消しの遡及効が及ばない(32条1項後段)。取引の安全を図るためである。

「善意」の意味が問題になるが、判例は、直接取得者と相手方の双方が善意であることを要求する(大判昭13.2.7)。

失踪宣告の取消しと身分行為

婚姻のような身分行為の場合には、失踪宣告の取消しの遡及効を認めるべきかについて議論がある。

たとえば、「不在者が失踪宣告を受けた後、残された配偶者が第三者と再婚した。しかしその後、不在者が生存していたことが判明し、失踪宣告が取り消された」という事例を考える。

身分行為の場合にも民法32条1項後段の適用を肯定すると、後婚当事者(の少なくとも一方)が悪意であった場合には、失踪宣告の取消しにより前婚が復活して重婚状態が生じ、後婚についての取消原因となる(732条・744条)*。

* 前婚についても離婚原因となりえる(770条1項5号参照)。

しかし、失踪者と残存配偶者とは長期間離れていたのであり、当事者の意思を考えると、現在の婚姻関係(後婚)を保護するのが適当であると考えることもできる。

そこで、失踪宣告の取消しがなされても、後婚当事者が善意かどうかに関係なく前婚は復活せず、常に後婚が有効になると解する説も主張されている。

取得した財産の返還義務

失踪宣告によって財産(相続財産や保険金)を取得した者*は、失踪宣告の取消しがあると、その取得した財産を不当利得として返還する義務を負う(703条・704条)。

* 相続人や保険金受取人など、失踪宣告を直接の原因として財産を取得した者(直接取得者)を指し、これらの者からの転得者は含まれない。

この点に関して、民法32条2項は、「現に利益を受けている限度」で返還義務を負うと定める*。「現に利益を受けている限度」とは、返還義務を利益が残っている範囲に限定するという意味である。

* 通説は、同規定は703条と同じことを規定したにすぎず、直接取得者(受益者)が悪意の場合には704条が適用されるとする(悪意者排除説)。

利益が当初の形のままで残っている場合だけでなく、その価値が形を変えて残っている場合も含まれる。たとえば、取得した金銭を生活費に充てた場合は、それよって本来の財産からの支出を免れたことになり、利益は残っていると言えるので、その返還義務が生じる。

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