時効の完成猶予と更新

民法総則時効

時効の完成猶予・更新とは

民法は、取得時効と消滅時効に共通して時効の完成を妨げるいくつかの事由について規定している(147条~161条)。

これらの事由の効果は、時効の完成猶予時効の更新の二つに分けられる。

時効の完成猶予

時効の完成猶予とは、一定の事由が発生した場合に、その事由の継続中およびその事由の終了時から一定期間が経過する時までの間は時効が完成しないことをいう。

時効の完成を猶予する事由が発生すると、その後も時効は進行し続けるが、猶予期間が経過する時まで時効完成の時期が先延ばしにされる。時効の完成が猶予される期間は、事由ごとに異なる(後述)。

災害のために、時効期間の満了時になっても訴えの提起などをすることができないときは、その障害が消滅した時から3か月を経過するまでの間、時効が完成しない(161条)。訴えの提起などがなされずに猶予期間を経過すれば、その時点で時効が完成する。

時効の更新

時効の更新とは、一定の事由の存在によって、新たな﹅﹅﹅時効の進行が開始することをいう*。時効の更新があると、それまでに経過した時効期間はまったく無意味になる。

* 更新後に進行する時効期間の長さは、原則として更新前の時効期間と同じである。ただし、確定判決等によって確定した権利の消滅時効期間は、10年になる(169条)。

債務者が債権者に対して債権の承認をすると、その時から新たな時効が進行する(152条1項)。

時効の完成猶予事由・更新事由

時効の完成を妨げる事由をその効果によって分類すると、次のようになる。

  1. 時効の完成猶予及び更新が生じる事由  
    • 裁判上の請求等(147条)
    • 強制執行等(148条)
  2. 時効の完成猶予だけが生じる事由  
    • 仮差押え・仮処分(149条)
    • 催告(150条)
    • 協議を行う旨の合意(151条)
    • 158条から161条の事由
  3. 時効の更新だけが生じる事由  
    • 承認(152条)

① 時効の完成猶予及び更新が生じる事由

民法147条1項が列挙する事由(裁判上の請求等)*や148条1項が列挙する事由(強制執行等)⁑がある場合、これらの事由(手続き)が終了するまでの間は時効の完成が猶予され、目的を達成して事由が終了した時点で時効が更新される(147条・148条)⁂。

* ①裁判上の請求、②支払督促、③訴え提起前の和解・民事調停・家事調停、④破産手続参加・再生手続参加・更生手続参加。これらの事由は、確定判決または確定判決と同一の効力(民事訴訟法396条、同267条、破産法124条等)を得ることを目的とする。
⁑ ①強制執行、②担保権の実行、③形式競売、④財産開示手続。
⁂ 権利が確定されず、または、申立ての取下げや法律の規定に従わないことによる取消しによって事由が終了した場合は、事由終了時から6か月の猶予期間が与えられるが、更新はしない。

たとえば、訴えの提起(裁判上の請求*)がなされると、判決が確定して訴訟手続が終了するまでの間、時効の完成が猶予される(147条1項)。

* 民事訴訟法147条参照。訴えの提起以外の行為であっても、裁判上の請求あるいはそれに準ずるものと認められることがある。

そして、判決確定によって訴訟手続が終了した時点で時効が更新されて、新たな時効の進行が開始する(同条2項)。

② 時効の完成猶予だけが生じる事由

仮差押え・仮処分(149条)、催告(150条)*、協議を行う旨の合意(151条)⁑があった場合、一定期間が経過するまでの間は時効の完成が猶予される

* 裁判外で債務の履行を請求する行為(意思の通知)であり、内容証明郵便による履行の催促が典型例である。
⁑ 協議を行う旨の合意は、書面(電磁的記録)によって行われることを要する。

これらの行為は、訴えの提起などを行うための前段階の行為であるので、時効の更新の効果までは与えられていない。猶予期間を経過したあとは、時効が完成する。

また、民法158条から161条は、時効の完成を阻止する措置を講じることが困難である場合*に、一定期間が経過するまでの間、時効の完成を猶予することを定めている。

* ①未成年者または成年被後見人に適当な法定代理人がいない場合(158条)、②夫婦間の権利の場合(159条)、③相続財産に関する権利の場合(160条)、④天災その他避けることのできない事変があった場合(161条)。

 各事由の猶予期間
  1. 裁判上の請求等(147条1項各号)
    ……事由が終了するまでの間(権利が確定せずに事由が終了した場合、その終了の時から6か月)
  2. 強制執行等(148条1項各号)
    ……事由が終了するまでの間(申立ての取下げまたは法律の規定に従わないことによる取消しによって事由が終了した場合、その終了の時から6か月)
  3. 仮差押え・仮処分(149条)
    ……事由が終了した時から6か月
  4. 催告(150条)
    ……催告の時から6か月(再度の催告による延長は不可)
  5. 協議を行う旨の合意(151条)
    ……①合意の時から1年、②合意において定めた(1年未満の)協議期間、③書面による協議続行拒絶の通知があった時から6か月のうち、いずれか早く経過する時までの間(再度の合意による延長が可能、ただし本来の時効完成時から5年を超えることができない)
  6. 未成年者または成年被後見人に適当な法定代理人がいない場合(158条)
    ……未成年者・成年被後見人が行為能力者となった時または(後任の)法定代理人が就職した時から6か月
  7. 夫婦間の権利(159条)
    ……婚姻解消(離婚・取消し・死亡)の時から6か月
  8. 相続財産に関する権利(160条)
    ……相続人確定、管理人選任または破産手続開始決定の時から6か月
  9. 天災その他避けることのできない事変(161条)
    ……障害が消滅した時から3か月

③ 時効の更新だけが生じる事由

(時効更新事由としての)承認とは、時効の利益を受ける者が権利者に対してその権利の存在を認める行為をいう。債務者が債権の存在を認めたり(消滅時効の場合)、物の占有者が相手方の所有権を認めたり(取得時効の場合)することなどがこれに当たる。

承認があったとき*は、その時から時効が更新される(152条1項)。

* 承認は特別の方式や手続きを必要とせず、さまざまな行為が広く承認として認定される。具体例として、支払猶予の申入れ、債務の一部の弁済(債権全部の承認になる)、利息の支払い(元本債権の承認になる)などがある。

承認は、時効の利益を受ける者(債務者や占有者)によってなされるものであり、また、完成猶予の効果が生じないという点で他の事由とは異なる。

なお、時効完成後にする承認は、時効がすでに完成しているので更新事由にはならない(時効の利益の放棄などの問題になる)。

承認に必要な能力・権限

承認は、時効完成前(時効利益が生じる前)に相手方に権利が存在することを認める行為にすぎず、既有の権利を放棄したり新たに義務を負担したりするような行為ではない。

それゆえ、権利の承認をする者にその権利を処分する行為能力または権限があることは要求されていない(152条2項)*。

* もっとも、承認も財産を管理する行為である以上は、管理行為をする能力または権限があることが必要であると解されている(未成年者について大判昭13.2.4)。

承認とは対照的に、時効利益の放棄は、時効完成によって生じた時効利益を積極的に放棄する行為(意思表示)であるため、意思表示の一般原則にしたがって、放棄をする当事者に行為能力や処分権限があることが必要とされる。

時効の完成猶予・更新の人的範囲

民法147条から152条までの規定による時効の完成猶予・更新は、時効の完成猶予または更新の事由が生じた当事者およびその承継人の間だけで生じる(相対効、153条)。

① 連帯債務者ABのうちAだけが債権者Cに対して債権の承認をした場合、債権の消滅時効の更新はAC間だけで生じ、AB間には生じない。
② ABが共有する土地をCが占有している場合に、AだけがCに対して裁判上の請求を行ったときは、取得時効の完成猶予および更新はAの持分についてだけ生じ、Bの持分については生じない。

もっとも、当事者(とその承継人)以外の者に対しても時効の完成猶予・更新が生じる例外もある*。

* ①保証関係(457条1項、物上保証も同じ)、②地役権(292条)、③強制執行等及び仮差押え等(154条。物上保証人に対する抵当権の実行は、債務者への通知を条件として債務者との関係でも時効の完成猶予・更新を生じさせる)。

コメント

  1. 物上保証人は被担保債権の存在を承認しても、152条の承認とは認められず(最判昭62.9.3)、被担保債権の消滅時効を援用することができます。
    なぜでしょうか。

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