期限

民法総則条件・期限

期限とは

期限とは、法律行為の効力の発生・消滅または債務の履行を将来発生することが確実な事実にかからせる特約をいう。

期限となる事実は、将来発生することが確実な事実である。この点で、将来発生するかどうかが不確実な事実にかからせる条件と異なる。

出世払い

ある特約が条件と期限のいずれであるかを容易に判別できない場合もある。

その一例が、将来自分が出世(成功)したときに返済する旨の特約を付けて金銭を借り入れる契約をした場合である(いわゆる「出世払い」)。

もし成功しなかったときには返済しなくてよいという趣旨であるときは条件(停止条件)となるが、成功した時または成功しないことが確定した時に履行期が到来するという趣旨であるときは期限(不確定期限)となる。

個々の事案ごとに具体的事情に即して判断すべき問題であるが、判例は出世払い特約を不確定期限と解する傾向にある(大判大4.3.24など)。

始期・終期

法律行為の効力の発生または債務の履行に関する期限を始期という*。たとえば、「来月1日から賃貸する」「今月末に代金を支払う」という場合の「来月1日」「今月末」がこれに当たる。

* 法律行為の効力の発生に関する期限を停止期限といい、債務の履行に関する期限を履行期限という。

法律行為の効力の消滅に関する期限を終期という。たとえば、「2年間建物を賃貸する」という場合の「2年間」の満了時がこれに当たる。

確定期限・不確定期限

到来する時期が確定している期限を確定期限という(例、今月末に支払う)。また、到来することは確実であるが、その時期が不確定である期限を不確定期限という(例、父親が死んだら借金を返す)。

期限到来の効果

期限到来の効果は、期限の種類によって異なる。

法律行為に始期を付したとき(停止期限)は期限の到来によって法律行為の効力が発生する。債務の履行に始期を付けたとき(履行期限)は期限の到来によって債務の履行を請求することが可能になり(135条1項)、法律行為に終期を付けたときは期限の到来によって法律行為の効力が消滅する(同条2項)。

期限の効果は、将来に向かってのみ生ずる。特約によって遡及効を定めることは、無意味であるから認められない*。

* 同様の理由で、取消し・相殺など遡及効のある行為に始期を付けることは許されない(相殺につき、506条1項)。

期限の利益

期限の利益とは、期限が到来しないことによって当事者の一方または双方が有する利益をいう。

金銭消費貸借契約における借主(債務者)は、返済期が到来するまでの間は金銭を自由に費消することができるという利益を有する。

期限は債務者の利益のためにあることがふつうであり、民法も債務者が期限の利益を有するものと推定している(136条1項)*。

* もっとも、法律行為の当事者のいずれが期限の利益を有するかは、場合によって異なりうる。たとえば、無利息の消費貸借では借主(債務者)のみ、利息付消費貸借では貸主(債権者)と借主の双方、無償寄託では寄託者(債権者)のみが期限の利益を有する。

期限の利益の放棄

期限の利益を有する当事者は、これを放棄することができる(136条2項本文)。

期限の利益が債務者だけにある場合は、債務者はこれを放棄して期限前に弁済することができる。

当事者双方に期限の利益がある場合には、期限の利益を放棄する者は、放棄によって「相手方の利益を害することはできない」(同項ただし書)。これは、相手方が期限の利益の喪失によって受ける損害を賠償しさえすれば期限の利益を放棄することができる趣旨であると解されている。

したがって、たとえば、定期預金(期限が当事者双方の利益のために存在する)における預り主である銀行は、満期までの約定利息を支払う(預金者の損害を填補する)ことによって期限前に元本を返還する(期限の利益を放棄する)ことができる(大判昭9.9.15)。

期限の利益の喪失

期限が到来するまでの間に、債務者にその信用を失わせるような一定の事実が発生した場合には、債務者は期限の利益を喪失する。その結果、債権者は直ちに債務の履行を請求することができる。

民法は、法律上当然に期限の利益を喪失する場合として、①債務者の破産手続開始の決定、②債務者による担保の滅失、損傷または減少、③債務者の担保供与義務の不履行の三つの事由を定める(137条)。

また、法律行為の当事者の特約によって、一定の事実が生じた場合、当然にまたは債権者の請求によって期限の利益を失う旨を定めることもできる。このような特約を期限の利益喪失約款(期限の利益喪失特約)と呼び、銀行取引約定書におけるそれが代表例である。なお、割賦販売契約における期限の利益喪失約款が一定の事由により当然に期限の利益を喪失するものであるのか、それとも債権者の請求によってはじめて喪失するものであるのかが、消滅時効の起算点という観点から問題となる(割賦販売法5条参照)。

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