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代理権消滅後の表見代理

このページの最終更新日 2015年12月11日

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民法112条適用の要件

民法112条は、代理権を有していた者が代理権が消滅した後に無権代理行為をした場合の表見代理(代理権消滅後の表見代理)について規定する。本条の表見代理が成立するための要件は、次のとおりである。

① 無権代理人がかつて代理権を有していたこと(代理権の消滅)

② 無権代理行為がかつて存在した代理権の範囲内で行われたこと

③ 第三者(相手方)が代理権の消滅について善意無過失であること

代理権が消滅(代理関係が終了)した後に代理人と称してした法律行為は無権代理となり、本来であれば、本人がその責任を負うことはない。しかし、代理権の消滅は本人・代理人間の内部事情であって、外部からはわかりにくい。無権代理人が代理権を有しているかのような外観が残存しており、第三者がその外観を信頼して取引した場合には、その第三者を保護する必要がある。

(1) 無権代理人がかつて代理権を有していたこと

112条は、以前に代理権を有していた者が行った行為について適用される。その者を信頼して代理権を与えたことにより、結果的に代理権が存続するかのような外観を作り出したこと、あるいは、代理権が消滅した後も代理権が存続するかのような外観を取り除かなかったことに本人の帰責性が認められる。

〔参考〕過去の取引経験の要否

民法112条は、相手方が代理権消滅後に初めて代理人と称する者と取引する場合にも適用があり、相手方が代理権消滅前に代理人と取引をしていた場合だけに適用が限定されるわけではない。代理人と取引をしたことがあるという事実は、相手方の善意・無過失を認定するための一資料であるにすぎない(最判昭44.7.25)。

〔参考〕無権代理行為追認後の無権代理

本人が従前の無権代理行為を追認した後に、従前の代理人がさらに無権代理行為を行ったという場合にも、本人はその責任を負う余地がある(最判昭45.12.24―無権代理人Bがした根抵当権設定を本人Aが追認した後にさらにBが別の相手方Cとの間で無権代理によって根抵当権設定をしたという事案、110条および112条の類推適用によって本人は無権代理行為につき責任を負う余地があると判示した)。追認は、無権代理行為時にさかのぼってその効力を生じるものであるから(116条)、代理権の授与に準じて処理するのが適当である。

(2) 無権代理行為がかつて存在した代理権の範囲内で行われたこと

112条が適用されるには、無権代理行為がかつて存在した代理権の範囲内で行われたことが必要である。その範囲を越えて無権代理行為が行われた場合は、112条と110条との重畳適用の問題になる。

(3) 第三者(相手方)の善意無過失

表見代理は相手方の信頼ないし取引の安全を保護するための制度であるから、112条の場合にも相手方の善意無過失が要求される。ただ、109条の場合と同様、その証明責任は本人が負う。すなわち、本人が責任を免れるためには、相手方が代理権の消滅を知っていたこと、または、知らなかったことについて過失があったことを主張立証しなければならない。代理権が消滅しても、相手方はその事実を知らないのが通常だからである。

〔参考〕民法112条の善意と無過失の証明責任

民法112条は、文章の構造上、善意と無過失とを分けて規定しており、実務上は、この区別にしたがって証明責任が分配される。すなわち、まず、善意についての証明責任を第三者(相手方)が負う。そして、第三者が善意の証明に成功した場合、本人が第三者の過失を証明することによってその責任を免れることができる。つまり、第三者の過失についての証明責任は本人が負う。これに対して、学説は、109条(善意・無過失どちらも本人が証明責任を負う)とのバランスなどを考慮して、本人が善意・無過失(でないこと)の証明責任を負うと主張する。その趣旨を述べた判例も存在する(大判明38.12.26)。

民法112条の適用上の問題

1 法定代理への民法112条適用の可否

民法112条が法定代理にも適用されるかどうかについて見解が分かれている。もっぱら取引の安全を重視するのであれば、法定代理にも本条の適用を認めるべきということになる(従来の通説)。しかし、現在の学説は、本人の帰責性を表見代理の実質的根拠と考えるので、本人が無権代理人に対して過去に代理権を与えたという点に本人の帰責性を認める見解をとるならば、本条を法定代理に適用する余地はない。

2 民法112条と民法110条の重畳適用

代理権消滅後に従前の代理人がなお代理人であると称して無権代理行為を行った場合であっても、それが消滅した代理権の範囲外の行為であったときには、民法112条を適用する要件を欠く。しかし、判例は、112条と110条の「両条の法意より推論」すると、このような場合であっても相手方の信頼を保護するべきであるとし、両規定を類推適用して無権代理行為について本人に責任を負わせるべきであるとする(大連判昭19.12.22―保証契約の代理権を有していた者がその消滅後に別の相手方(銀行)との間で自己の債務に関して本人を保証人とする連帯保証契約を締結した事案、最判昭32.11.29―石炭売買契約の代理権を有していた者がその代理権消滅後に代理人と称して別の第三者との間で従前の代理権の範囲を越えて石炭売買契約を締結したという事案)。

3 法人の代表者の退任登記

法人の登記事項は、登記された以後は第三者はその事実について悪意であるとみなされる(登記の積極的公示力、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律299条1項、会社法908条1項等)。したがって、すでに退任登記がなされている者が法人の代表者として取引を行ったとしても、第三者において正当な事由がないかぎり、民法112条は適用されない(最判昭49.3.22―代表取締役の退任登記、最判平6.4.19―社会福祉法人の理事)。

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