養子

親子親族法

養子制度

養子制度は、血縁がない者の間での法律上の親子関係の形成を認める制度である。

養子制度には、普通養子制度と特別養子制度とがある。

普通養子制度

普通養子制度は、従来からある養子制度である。

普通養子縁組は当事者の合意と届出によって成立し、その解消(離縁)も当事者が協議によって自由にすることができる。婿養子のような成年養子も認められる(実際にも成年養子のほうが未成年養子よりも多い)。

普通養子制度は、婚姻と共通する部分が多く、婚姻に関する規定が多く準用される。

特別養子制度

普通養子制度には子のための養子制度としては問題があるために、未成熟子に親を与えるための制度として新たに創設されたのが特別養子制度である。

特別養子縁組は、家庭裁判者の審判によって成立する。離縁は、原則として認められない。普通養子とは異なり、実親やその親族との関係は終了し、戸籍の記載も実子に近くなる。

普通養子縁組の要件

普通養子縁組は、養親となる者と養子となる者との間の縁組の合意と、戸籍の届出によって成立する(要式行為)。

普通養子縁組の実質的要件は当事者間に縁組意思の合致があることと、792条から798条までの法定要件を満たすこと(縁組障害がないこと)であり、形式的要件は縁組の届出である。

縁組意思

縁組意思の内容

縁組意思(802条1号「縁組をする意思」)とは、社会通念上、親子と認められる関係を形成する意思をいう(実質的意思説、最判昭23.12.23)。婚姻意思と同じで、単に縁組の届出をする意思だけでは足りない。

当事者が養子縁組をする目的は相続・扶養・氏の変更など多様であるが、それら親子関係の効果を意図することなく、もっぱら仮装的・脱法的な目的で養子縁組制度を利用する場合(仮想縁組)には縁組意思が認められない。

縁組意思の存在時期

当事者間に縁組の合意がなされていた場合、縁組の届出当時に当事者が意識を失っていても、受理前に翻意(撤回)したなどの事情がないかぎり、縁組は有効に成立する(最判昭45.11.24)。

法定要件

普通養子縁組は、次の各要件を満たさなければならない。

  1. 養親となる者20歳に達していること(792条)
  2. 養子となる者が養親となる者の尊属または年長者でないこと(793条)
  3. 後見人が被後見人を養子にするには家庭裁判所の許可を得ること(794条)
  4. 配偶者のある者が未成年者を養子とするには、配偶者とともにすること(795条本文)*
  5. 配偶者のある者が縁組をするには、その配偶者の同意を得ること(796条本文)⁑
  6. 養子となる者が15歳未満であるときは、その法定代理人が代わって縁組の承諾をすること(797条1項)⁂=代諾縁組
  7. (自己または配偶者の直系卑属以外の)未成年者を養子とするには家庭裁判所の許可を得ること(798条)

*配偶者とともに縁組をし、または、配偶者が意思表示することができない場合には、配偶者の同意は不要である(796条ただし書)。
⁑配偶者の嫡出子を養子とする場合や、配偶者の一方が意思表示することができない場合は、他方配偶者は単独で縁組をすることができる(795条ただし書)。また、配偶者のいない者(独身者)が未成年者を養子とすることも可能である。
⁂子の父母で監護者である者がいるときや、親権を停止されている父母がいるときは、それらの者の同意を要する(797条2項)。

以上の要件さえ満たしていれば、養子縁組は有効である。成年者を養子にすることも、兄が弟を養子にすることも可能である。

成年被後見人も、成年後見人の同意を得ずに単独で縁組をすることができる(799条→738条)。

未成年養子

未成年者を養子とする場合は、養子の福祉を図るために、夫婦共同縁組家庭裁判所の許可という制約がある。

夫婦がともに縁組をすることを要するのは(795条本文)、養子の福祉のためには夫婦が共同で親権を行使することが望ましいからである。

また、家庭裁判所の許可が必要であるのは(798条本文)、子の福祉に反する縁組を阻止するためである。自己または配偶者の直系卑属(孫や他方の連れ子など)を養子とする場合には、そのおそれがないので家庭裁判所の許可は不要である(同条ただし書)。

代諾縁組

養子となる者が15歳未満であるときは、その法定代理人(親権者・後見人・児童福祉施設長)が代わって縁組の承諾をする(797条1項)。これを代諾縁組という。一種の代理である。

子の法定代理人でない者(たとえば戸籍上の父母)による代諾は一種の無権代理行為となるが、子が15歳に達した後に追認することによって縁組は初めから有効となる(最判昭27.10.3)。

縁組の届出

養子縁組は、戸籍の届出によって成立する(799条→739条)。

民法792条から798条までに定められた要件(上述)を満たさない縁組の届出は受理されない(800条)。

藁の上からの養子

子を望む夫婦が、出生後間もない他人の子をもらい受けて、自分たちの嫡出子として出生届をすることがある(「わらの上からの養子」という)。

このような虚偽の出生届によって戸籍上は実親子とされても、実体法上の実親子関係は当然に生じない。しかし、すでに実親子同様の生活の実態がある場合にまで親子関係を否定することは、子の福祉に反することになる。

そこで、虚偽の出生届を養子縁組届として有効とする考えが主張されている(「無効行為の転換」理論)。しかし判例は、養子縁組は要式行為であることや、未成年者養子には家庭裁判所の許可が必要であることを理由にこれを認めない(最判昭25.12.28)。

判例は、実親子関係の不存在確認請求が権利濫用法理によって制限されうることを認める(最判平18.7.7)。

縁組の無効・取消し

縁組の無効

当事者に縁組をする意思(縁組意思)がない場合、縁組は無効になる(802条1号)*。人違い、本人の知らない間に届出がなされたとき、他の目的のための方便として縁組届がなされたとき(仮装縁組)などがこれに当たる。

*婚姻の場合と同様に、届出がない場合(802条2号)は無効ではなく、不成立であると解されている。

縁組の取消し

法定の要件を満たさない縁組や、詐欺・強迫による縁組は、その取消しを家庭裁判所に請求することができる(803条~808条1項)。

取消しの効果は婚姻の取消しに準じ(将来効)、復氏などは離縁に準じる(808条→747条・748条・769条・816条)。

普通養子縁組の効果

嫡出親子関係の発生

養子は、縁組の日から養親の嫡出子の身分を取得する(809条)。

それゆえ、養子は養親の氏を称し(810条本文)*、養子が未成年であるときは養親の親権に服する(818条2項)。

*婚姻によって氏を改めた者が単独で養子となる場合は、その氏を続称する(夫婦同氏が優先、810条ただし書)。

法定血族関係の発生

養子は、養親の血族との間にも親族関係(法定血族関係)を生ずる(727条)。

養子とその実親および実方の親族との関係もそのまま存続するので、養子は実方と養方の双方の親族関係(相続・扶養関係)を持つことになる。

なお、縁組時に養子にすでに子がいる場合、その子と養親との間には親族関係が生じない。

離縁

普通養子縁組は、離縁によって解消することができる。

離縁には、離婚と同様に、①協議離縁(811条)、②裁判離縁(814条)、③調停離縁(家事事件手続法)、④審判離縁(同法)の種類がある。さらに、離縁に特有のものとして死後離縁の制度がある。

協議離縁

縁組の当事者は、協議(合意)によって離縁することができる(811条1項)。協議離縁は、婚姻に準じる方式で届出をすることで成立する(812条→739条)。

養子が未成年者である場合

養子が15歳未満の場合は、離縁後に子の法定代理人となるべき者(通常は実父母)*が養子に代わって離縁の協議をする(811条2項)。養子が15歳以上の場合は、本人との協議による。

*養子の実父母が縁組後に離婚していたときは、その実父母の協議または家庭裁判所の審判によって離縁後に子の親権者となるべき者を定める(811条3項4項)。法定代理人となるべき者がないときは、家庭裁判所が離縁後に子の未成年後見人となるべき者を選任する(同条5項)。

養親が夫婦である場合に未成年者と離縁をするには、夫婦が共にしなければならない(811条の2本文)。夫婦の一方が表意不能であるときは、他の一方だけで離縁することができる(同条ただし書)。

なお、養子が未成年者であっても、家庭裁判所の許可は不要である。

離縁の無効・取消し

当事者が離縁意思を欠く場合は無効であり(規定なし)、詐欺・強迫による離縁は取り消すことができる(812条→747条)。

裁判離縁

離縁原因

縁組当事者は、次の事由(離縁原因)がある場合、離縁の訴えを提起することができる(814条1項)。

  1. 他の一方から悪意で遺棄されたとき(1号)
  2. 他の一方の生死が三年以上明らかでないとき(2号)
  3. その他縁組を継続し難い重大な事由があるとき(3号)

悪意の遺棄と生死不明の場合、離婚と同様に、裁判所は裁量で離縁請求を棄却することができる(814条2項→770条2項)。

縁組を継続し難い重大な事由

民法は、離婚と同様に、離縁についても破綻主義を採用している。すなわち、「縁組を継続し難い重大な事由」の存在によって養親子関係が破綻している場合には、離縁請求が認められる*。

*判例(最判昭36.4.7)は、婿養子夫婦(養親の娘と養子が夫婦)の婚姻関係の破綻が養親子関係の破綻の原因となっていたときは「重大な事由」に当たるとした。

もっとも、破綻の原因が専らまたは主に一方当事者にある場合、その者(有責者)からの離縁請求は認められない(消極的破綻主義、最判昭39.8.4)。

死後離縁

婚姻の場合と異なり、縁組当事者の一方が死亡しても養親子関係は当然には終了しない

縁組当事者の一方が死亡した場合には、生存当事者は家庭裁判所の許可を得て離縁をすることができる(811条6項)。これを死後離縁という。

死後離縁は、養子と養方の親族との間の法定血族関係の終了を目的とする意思表示であり、届出によって成立する(生存配偶者の姻族関係終了の意思表示(728条2項)に相当する)。

離縁の効果

嫡出親子関係の消滅

離縁によって養親子間の嫡出親子関係は消滅する。それを基点とするその他の親族関係(血族・姻族)もすべて消滅する(729条)。もっとも、近親婚の禁止は存続する(736条)。

復氏・復籍等

養子は、当然に縁組前の氏に復し(養親夫婦の一方のみと離縁した場合を除く、816条1項)、原則として縁組前の戸籍に入る(戸籍法19条1項)。

養親子関係が7年以上経過した後に離縁した場合には、離縁の日から3か月以内に届け出ることによって、離縁時の氏を続称することができる(816条2項)。

養子が養方の祭祀財産を承継していた場合は、その承継者を定める(817条→769条)。

特別養子制度

特別養子制度は、家庭に恵まれない子の養育を目的とする養子制度である。子の福祉の観点から、普通養子と比べて厳格な要件が定められている。

特別養子縁組の要件

養親の要件(夫婦・年齢)

養親は、配偶者のある者が夫婦共同で養親とならなければならない(817条の3)。子の養育のためには、夫婦ともに親となることが望ましいからである。

養親は、夫婦の少なくとも一方が25歳以上であることを要する。他方は、20歳に達していればよい(817条の4)。

養子の要件(年齢・同意)

養子は、縁組成立の審判の申立て時に15歳未満(例外あり)、審判時に18歳未満であることを要する(817条の5第1項)。

養子となる者が審判時に15歳に達している場合、その者の同意がなければならない(同条3項)。

父母の同意

原則として、養子となる子の父母(養父母を含む)の同意が必要となる(817条の6)。

要保護性

「父母による養子となる者の監護が著しく困難又は不適当であることその他特別の事情がある場合において、子の利益のため特に必要があると認め」られること(817条の7)。孤児や棄児、実親に養育能力がない婚外子、虐待を受けている子などがこれに当たる。しかし、普通養子からの転換や連れ子などには、原則として要保護性はない。

特別養子縁組の成立手続き

特別養子縁組は、養親となる者の申立てにもとづき、家庭裁判所の審判によって成立する(817条の2)。この手続きは、二段階に分けて行われる(家事事件手続法)。

まず第一段階として、実親による養育状況および実親の同意の有無等が審理され、特別養子適格の確認の審判がなされる。第二段階として、6か月以上の試験養育期間(817条の8)を経た後に、特別養子縁組成立の審判がなされる。

特別養子縁組の効果

普通養子と同様に、養子と養親およびその血族との間に親族関係が発生する(809条・727条)。養子は、養親の氏を称する(810条)。

普通養子と異なり、養子と実方の父母およびその血族との親族関係は終了する(817条の9)。ただし、近親婚の制限は残る(734条・735条)。

特別養子の戸籍は、実子に近づける工夫がされている。

特別養子縁組の離縁

特別養子縁組は、離縁することができないのが原則である。

例外的に、①養親による虐待、悪意の遺棄その他養子の利益を著しく害する事由があり、②実父母が相当の監護をすることができる場合には、一定の者の申立てによって家庭裁判所は離縁の審判をすることができる(817条の10)。

離縁によって実父母およびその血族との親族関係が復活する(817条の11)。

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